再会したエリート警視とお見合い最愛婚
 昔から彩乃の嘘なんて簡単に見抜く父だけれど、蒼士と離れて寂しい気持ちは嘘偽りがないものだからか、納得してれたようだ。

「ただ北条君も心苦しく感じているはずだ。大切な家族に秘密を持つというのは、任務とはいえ悩ましいことだからね」

 父の言葉が意外で、彩乃は目を瞬いた。

「お父さんも、お母さんに何も話せなくて、辛かった? 喧嘩になったことはある?」

 彩乃の問いに父は記憶を探るように目を細くした。

「喧嘩はしなかったな。でも言葉が足りなくて誤解をさせてしまったことはある。それでもここまで支えてくれて心から感謝しているよ」

 穏やかなその声には、深い愛情が込められているのだと思った。

「......お母さんもお父さんに感謝してるよ。いつもお父さんは私たち家族の為に頑張ってると言ってたから」

 父が僅かに目を細めた。それだけの変化だけれど、父が心からの喜びを感じている様子が伝わってくる。

「彩乃も今は辛い時期だと思うが、もう少しの辛抱だ。北条君を信じて待ちなさい」

「うん。頭では分かってるんだど」

「彩乃の相手に北条君を選んだのは、彼の誠実さと正義感を買ったからなんだ。私の娘と結婚したがる部下は大勢いて、皆一様に会ったこともない彩乃を褒めていたよ。たが、北条君は私に忖度しなかった。彼なら彩乃を私の娘としてではなく、ひとりの女性として真摯に向き合ってくれると思ったんだ」

「そんなことが......」

「だから、北条君を信じて、もう少し待ってやりなさい」

「うん......ありがとう、お父さん」

 彩乃は父の言葉に頷いた。



 シャワーを浴びて自室のベッドに寝転がった彩乃は、スマートフォンを手に取り画面をじっと見つめた。

 蒼士からの連絡は三日前が最後。それきりメッセージひとつない。

 彩乃はスマートフォンを置いて目を閉じた。

 すると先ほどの衝撃的な光景が頭に浮かび上がる。

 蒼士の隣に立つ彩乃とは違い大人びて洗練された女性。自信に溢れ堂々としているように見えた。

 ふたりの会話も対等な関係を表すような遠慮がない、親しさを感じるものだった。

 蒼士が彼女にかける言葉は、彩乃に対するような優しいものではなかったけれど、その分彼女への距離の近さを感じた。

(蒼士さんはあの女性を本気で好きなのかな?)
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