再会したエリート警視とお見合い最愛婚
 認めたくはないけれど、彩乃よりも蒼士のパートナーに相応しいと思った。

 そう思うくらい、ふたりの間には対等さがあった。

(私たちの関係とは大違い)

 蒼士と彩乃は、恋愛関係で結ばれた夫婦ではない。

 彩乃が一方的に彼を思っているだけなのだ。だから蒼士が同じ想いを彩乃に向けてくれなくても仕方がないと思っていた。

(でも、実際目の当たりにするとこれ程辛いなんて)

 彼が他の女性と今この瞬間一緒にいると考えると、こみ上げる嫉妬で苦しくなる。

 仕方がないなんて、どうしても思えない。

 目を閉じると、ふたりの姿が浮かび涙がこぼれてしまうのに。

(どうすればいいのかな......)

 父にはあと少しの辛抱だと、信じて待てと言われたけれど、今夜を乗り切るのも難しいくらい胸が痛くて心は騒めいている。

 その夜は朝まで眠ることができなかった。


 
 十二月に入り寒さが増す中、彩乃は残業続きの日々を送っていた。

 元々忙しい時期に加えて、担当弁護士のひとりが体調不良で入院した為、スケジュールの調整と、他の弁護士への引き継ぎ作業で、事務作業が通常の倍に膨れ上がっていた。

 蒼士からはときどき連絡がくるが、まだしばらく別居が続くとのこと。

 彼は彩乃が銀座でミナの存在をしったことを知らないから、いつもと変わらない態度で接してくる。

 でも彩乃は、これまでのように素直に彼からの連絡を喜べなくなってしまっていた。

 楽しく話そうとしても、どうしても頭の中から、あの夜聞いた衝撃的な会話が消えてくれない。

 彼に直接ミナとの関係を問いただしそうになった瞬間もあった。

 でも、結局口には出来なかった。

 真実を聞くのが怖かった。知らないふりをしていたら、蒼士と夫婦のままでいられる。でもやっぱり割り切れなくて苦しくて。

 そんな風にひとり悩む日々を送っているから、大変なはずの山盛りの仕事に助けられていると感じていた。



「よし、なんとか終わった」

 定時後三時間の残業をするようになってから、一週間。ようやく引き継ぎに関する作業が終わり、彩乃は達成感味わっていた。

「彩乃、今日はもう帰れるの?」

「夏美。うん、引き継ぎ関係は終わったところ」

「それじゃあ、久しぶりに飲みに行く?」

「うん、そうしようか」

 彩乃は素早く荷物を纏めてから、席を立った。
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