再会したエリート警視とお見合い最愛婚
 夏美と一緒にメイク直しをしに行く途中に、家にメッセージを送っておく。

「家に連絡したの? 相変わらず真面目だね」

 隣にいた夏美が感心したように言う。

「うん。ちゃんと連絡するようにって念を押されてるんだ......出戻りだからなのかな、前よりも厳しくなった感じがする」

「出戻りって、離婚した訳じゃないんだから」

「そうなんだけど......」

 現状は、大して変わらないかもしれない。

 そんなマイナス思考に陥りそうになり、彩乃は言葉を飲み込んだ。

 空調で温かさを保つオフィスビルから外に出ると、身が縮むような寒さが襲ってきた。

「うう......十二月ってこんなに寒かったっけ? ダウン着てくればよかった」

 今日の夏美のコートは、黒いウールのノーカラーコートだ。

「今日はとくに寒いよね」

「本当! 歩くの嫌だし近くで飲もうか」

 夏美は細身の自分の体を抱えるようにしながら、歩き出す。

 彩乃はストールをしっかり巻き直しながら後に続いたが、本当に寒い。トレンチコートを着て来たのは失敗だった。

 夏美が信号の向こうに見える凝ったファサードのダイニングバーを指さす。

「あの店でいいよね?」

「うん、大丈夫」

 彩乃は夏美に返事をしながらも気もそぞろで、キョロキョロと周囲を見回した。

「どうしたの?」

「さっきからなんだか見られているような気がして」

「視線を感じたの?」

「多分......何日か前にも感じたんだけど。見られているような、なんだか嫌な感じがするんだよね。気のせいなんだろうけど」

「やだ。気持ち悪い」

 夏美が眉を顰めて、周囲を見回す。

「怪しい人がいるかもしれないと思ったけど、人がいっぱいで分からないね」

「うん......だから私の勘違いかもしれない」

 自分は勘が鋭い方ではないと自覚しているし、気配に敏感という方でもない。

 それなのに、肝試しをしたときのような、この場から早く立ち去りたくなる焦燥感を覚え、自然と早歩きになった。

 目当てのダイニングバーは、外から中の様子が見通せる解放的なつくりの店で、座席数も多めで安心感のある店だ。

 空いていたテーブル席に座ると、ほっとした。

「ここまで来ればひと先ず安心かな。もう変な感じはないでしょう?」

「大丈夫」

「なんだか気味が悪いよね。蒼士さんか、お父さんには話したの?」
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