再会したエリート警視とお見合い最愛婚
「まだ話してない。気のせいかもしれないのに話したら、蒼士さんに余計な心配かけちゃうし、お父さんは今よりも過保護になって外出禁止を言って来そうだから、躊躇っちゃって」

 危ない目に遭った訳でもないし、不審な人物が近づいて来るというようなこともない。

 ただ、彩乃の直感と言うか、上手く言葉に出来ないなにかを感じるだけなのだ。

「外出禁止はありそう。彩乃のお父さんは口だけじゃなくて、実行力もあるから。高等部の時なんて本当に厳しかったよね、門限七時って......」

 夏美がククっと思い出し笑いをしてから、ふいに真面目な表情になる。

「でもさ、証拠もなにもない状態で話すのを躊躇うのは分かるけど、早く話しておいた方がいいよ。うちの事務所は個人の依頼が少ないから彩乃はピンと来ないかもしれないけど、ストーカー被害って誰にでも起こることで、私の知り合いの事務所で相談に来る人が多いみたいだから。彩乃も他人事じゃないかもしれない」

「ストーカー? まさか......」

 彩乃は行動範囲が狭い方だし、目を引くタイプではないから、そう言われてもあまりピンと来ない。

(でも、一度なら勘違いかもしれないけど、二度違和感を覚えたんだから、用心した方がいいよね)

 警察官僚の娘であり妻である以上、慎重に行動しなくては。

 ただふたりに相談するにしても、もう少し様子を見てからにしよう。

 彩乃の勘違いかもしれないのに、多忙なふたりに余計な心配をかけたくない。

「まずは自衛して、もう一度おかしいと思ったら話してみるよ」

「うん。そうした方がいいよ。本当にストーカーだったら、うちの先生に相談出来るしね」

「弁護士が身近だとこういう時に心強いよね」

「それを言ったら家族が警察官の彩乃のセキュリティは万全なんだよね。手を出したら返り討ちに遭いそうだもん。でも国家権力すら気にしないぶっ飛んだ人って一定数いるから、本当に気をつけなよ」

「分かった」

「よし。それじゃあ、蒼士さんとのその後を話して貰おうかな。気になってたんだよね」

 夏美が深刻な表情からがらりと変わり、にやりと笑う。ミナの件をまだ話していないから、深刻な状況だと知らないのだ。

 蒼士に恋人がいるかもしれないと言ったら、きっと夏美は蒼士に対して激怒して彩乃に寄り添ってくれるだろう。
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