再会したエリート警視とお見合い最愛婚
 どんなメニューがあるのか聞いたつもりなのだが、蒼士は生真面目にカフェの外観を説明しはじめた。通りがかりに見付けた割に詳しく、しかも中の様子までチェックしている。

(蒼士さん、どんな顔で観察してたのかな......きっと真面目な顔かな? 同僚の人が一緒だったのなら任務に関係していると思ったかも)

 そのときの彼の様子を想像すると面白い。それに彼が離れているときに彩乃を思い出してくれたことを知りうれしくなった。 彼の中で彩乃の存在が、少しはあるのだと分かったから。

「今から行くのが楽しみです。私は今日仕事中に凄いことがあったんです。事務所で裁判の結果に納得出来ないクライアントが大暴れして、警察まで呼ぶことになって」

『大丈夫だったのか?』

 蒼士の声が途端に心配そうなものになる。

「私は直接関わっていないから大丈夫ですよ。それにすぐ警官が来てくれて、暴れている人を素早く取り押さえてくれたので。すごいなと思ったけど、改めて警察官は危険な仕事だと思って......蒼士さんも気を付けくださいね」

 彩乃の職場にやって来た制服警官と蒼士の仕事は違うのだろうけれど、それでも警察官である以上、いざという時は、一般人を守り自らが先頭に立たなくてはならない。

『心配してくれてありがとう。気をつけるようにする』

「うん。それから......」

『蒼士!』

 彩乃が言葉を続けようとしたとき、電話の向こうから蒼士を呼ぶ女性の声がした。

 その瞬間、彩乃の胸がずきりときしむ。

 それまで感じていた喜びが、瞬く間に醒めていくのを感じる。

『こんなところで何しているの? あちこち探したんだからね!』

 彩乃が黙ると、女性が駆け寄って来たのか、すぐに声が大きく聞こえるようになった。

(この声......もしかしてミナさん?)

 女性にしては低い特徴がある声は、あの夜聞いた声に似ている気がする。

「なんだ?」

 蒼士の素っ気ない声がする。スマートフォンを離したのか、少し声が遠くなった。

『うちの課長が蒼士を探してるの。新情報が入ったみたい......って電話していたの? まさかこの忙しいときに奥さんと話してたんじゃなわよね?』

 女性の責めるような声に彩乃は思わずびくりとしたが、蒼士は平然と言い返す。

『すぐ行くから、先に戻ってくれ』
『え? 一緒に行けばいいじゃない』
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