再会したエリート警視とお見合い最愛婚
『いいから』

 蒼士が冷たく言うと、女性が去って行ったのか、電話の向こうに静けさが戻る。

 しばらくすると、再び蒼士の声がした。

『話を中断してごめんな』

「あ、ううん。大丈夫。私こそ仕事の邪魔をしてしまったみたいでごめんなさい」

『邪魔なわけないだろ? でもそろそろ仕事に戻らないといけない』

「はい......あの、蒼士さん今の......」

 女性......ミナはあなたにとってどんな人なの?

 喉元まで出かかった言葉を、彩乃は飲み込む。

 聞く勇気がどうしても持てない。

『どうした?』

「ううん、なんでもない」

『そうか。それじゃあ、また近いうちに連絡するから』

 蒼士が早口で言った。

「分かった。仕事頑張ってね」

『ああ』

 通話が切れる音がすると、彩乃は溜息を吐き項垂れた。

(蒼士さん、相変わらず忙しそうだな......私も警察官だったら、一緒に働いてサポートが出来 たかもしれないのに)
 
 警察官僚の父を持ちながら、彩乃が警察官を目指さなかったのは、運動が苦手で、のんびりした性格の自分には向いていないと思ったからだ。

 父も同じように考えていたようで、薦められたことは一度もない。

 だから今更考えても意味がないのだけれど、厳しい環境で一緒に働くミナと自分を比べて、そんな考えが浮かんでしまう。

(蒼士さん......)

 今頃、彼女と一緒に仕事をしているのだろうか。

 彩乃はずきずきと痛む胸を押さえて目を閉じた。


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