再会したエリート警視とお見合い最愛婚

 十二月半ばを過ぎ、仕事も街並みも年末を迎える忙しなさに包まれている。

 行動に気を付けて過ごしているため隙がないからなのか、今のところ不審な気配は感じない。誰かに付けられているような感覚に陥ることはなく至って平和だった。

(やっぱり私の勘違いだったのかもしれないな)

 蒼士と父に話して、余計な心配をかけなくてよかった。

 あとは蒼士との問題を解決出来たらいいのだけれど。

 彼との関係は、相変わらずだ。

 ただ彼は彩乃の態度の変化に気づいている。

 強引に聞き出したりはしないけれど。かなり心配させてしまっているのが分かる。

(もうこれ以上目をそらすわけにはいかない)

 真実を知るのはとても怖いけれど、現実と向き合わなくては

(蒼士さんの心が見えたら、こんなに悩まないで済むのに......)

 ずっとそう思い悩んでいた。

 でも、ふいにいつか父から聞いた言葉を思い出したのだ。

『喧嘩はしなかったな。でも言葉が足りなくて誤解をさせてしまったことはある。それでもここまで支えてくれて心から感謝しているよ』

 言葉が足りない......まさに自分にも当てはまることだと思った。

(私は蒼士さんに何も伝えてない)

 蒼士の気持ちが分からないように、彼だって彩乃の心を読めない。

 変化に気づいても、すべてを察するなんて不可能で彼だって悩んでいるかもしれない。そんな簡単なことに、今まで気付いていなかった。

 パリで出会ったとき、彩乃は蒼士に素直な気持ちを打ち明けられた。弱音を吐いて彼に励ましてもらい、彼への好意が大きくなった。

 彼も彩乃に辛かった過去を話してくれた。あのときのふたりは、言葉にできるような関係ではなかったのに、たしかにお互い心を通わせ合った。

 それなのに夫婦になった今、逆に心を隠してしまっているなんて。

 今の関係性を壊したくなくて臆病になっているからだ。蒼士は違うかもしれないけれど、彩乃はそうだ。

(次に会うとき、蒼士さんと話したいとお願いしてみよう。そしてあの女性のことも聞いてみよう)

 傷つく結果になるかもしれない。

 それでも勇気を出そうと決めた。


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