再会したエリート警視とお見合い最愛婚

「年齢はニ十才くらい。海外旅行に慣れてなく、警戒心も不足している日本人。初めはツアーで観光に来てはぐれたのかと思った。だから声をかけたんだ」

「遠くから見ただけで、そこまで分かるんですね」

 さすがは外交官だと感心する。

「少し話してからの感想は、本来はひとり旅なんて許して貰えないような、箱入り娘だ。当たってるだろ?」

 蒼士が確信をつくような強い目を向けて来たものだから、彩乃は思わずこくっと頷いた。

 同時に、閉じ込めていたはずの鈍い痛みが広がっていく。

「箱入り娘と言えるかは分かりませんけど、過保護に育てられたと思います」

 そう。先日二十二歳の誕生日を迎えたそのときまでずっと、両親の娘として大切にされていたと思っていたのだ――。

 八月二十七日は彩乃の二十二回目の誕生日だった。
 
多忙で普段はゆっくり話す機会があまりない父も、毎年娘の誕生日は予定を空けて祝ってくれる。

『彩乃、二十二歳おめでとう』
『お父さん、お母さん、ありがとう』

 二十二歳の誕生日祝いは、彩乃が好きな季節料理の店で行われた。

 滝川家の行きつけで、彩乃も幼い頃から何度も通っている。

 壺庭を眺める個室の中央に配された欅(けやき)の長机に並ぶのは、誕生日用の特別料理だ。

 美味しい料理に舌鼓を打ちながら、和やかな会話が続く。

『彩乃も来年は社会人なのね。月日が経つのは本当に早いわ』

 母がしみじみと言うと、父も同意するように頷く。

『そうだな。よい就職先から内定を貰えて安心したよ』

 今年は大学生活最後の年だからか、ふたりとも特に感慨深そうな様子だった。

 彩乃は法学部を卒業後、大手法律事務所への就職が内定している。

 単位を落とす心配もなく、憂いは何もない。

 だから晴れやかな気持ちで宣言したのだ。

『来年は社会人になるし、早く一人前になれるように頑張るね』

 ところが、両親の表情に影が差した。

『......どうかしたの?』

 ふたりの様子に彩乃は首を傾げた。

 食事中は機嫌が良さそうだったのに、いったいどうしたのだろうか。

『彩乃に話しておかなくてはならないことがあるんだ。大切な話だから、しっかり聞いて欲しい』

父が改まった様子で切り出した。

(大切な話?)

 彩乃は戸惑いながら母の様子を窺(うかが)う。母はいつになく緊張を孕(はら)んだ顔をしている。
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