一度は諦めた恋なのに、エリート警視とお見合いで再会!?~最愛妻になるなんて想定外です~
「そうか......佐伯君、ありがとう。念のためもうしばらくは注視しておいてくれ」
「はい。手配をしておきます」
「忙しいところ悪いが頼むよ。私もこれから報告会議に出席しなくてはならない。先に失礼するが君たちはしっかり食事をしていくように」
滝川次長はきびきびした動きで個室を出て行った。
「佐伯さん、彩乃の件ですが、高校生以外には不審人物はいませんでしたか?」
蒼士の問いに、佐伯が僅かに目を細める。
「いませんでしたが、なにか気になることでも?」
「滝川次長から聞いているかと思いますが、俺が側にいるときに、何者かにつけられたことがあります。場所は東京駅の地下街。尾行になれている者の仕業で、ターゲットは俺だと判断していました」
佐伯が蒼士の目をじっと見ながら頷いた。
「そうですね。だから北条君は別居を決断したと聞きました」
「彩乃をつけていたのが本当に高校生ならその方がいいんです。対処のしようがいくらでもあるので。ですがもしそうではなかったら......佐伯さん、その調査の詳細を確認させていただけませんか? また警戒も今日一日は続けて頂きたいんです」
「構いませんよ。すぐに報告書を用意させます」
「佐伯先輩の調査を疑っているわけではありません。ただ妻に関する件なので慎重になっています。気を悪くしたら申し訳ありません」
佐伯は滝川次長から絶大な信用を得ている。そんな彼の仕事に異議を申し立てるのは気が引ける。気まずそうにする蒼士に、佐伯はいいえと首を横に振る。
「評価してくれるのは嬉しいですが、買いかぶりすぎですよ。君の方がよほど優秀でしょう。だから次長は大切なお嬢さんの相手に北条君を選んだのだと思いますよ」
「まさか。俺の評価は佐伯先輩も知っているでしょう?」
「ええ。内部告発をして同僚を売ったと。あの件は残念でしたね。不正に関わっていたのが同じチームの上役だったから、秘密裡に対処することも、事前に根回しすることも叶わず、君の悪い噂だけが広がってしまった」
佐伯はかなり詳しく、蒼士の不正告発について知っているようだった。
「でも北条君の正義感を評価している人はいたんですよ。それが滝川次長です。以前から誠実な若者だと言っていました。佐藤課長の推薦で見合い話が進んだと思っているのかもしれませんが、それがなくてもいずれ話は有ったでしょうね」
佐伯の淡々とした語りから、なぜか好意のようなものを感じる。