一度は諦めた恋なのに、エリート警視とお見合いで再会!?~最愛妻になるなんて想定外です~
「僕も北条君の勇気を尊敬しているんですよ」
「......意外でしたが、お礼を言っておきます」
「どういたしまして」
会話が終わり、室内がシンとする。相変わらずコミュニケーションが取り辛いが、気まずさはない。
静か中で冷めかけた料理を口に運ぶ。
「早く事件が解決するといいですね。新婚なのに別居だなんて不幸ですから」
佐伯が突然思い出したように言った。
次長の信頼を得ている彼は、内情にだいぶ詳しいようだ。
「近いうちにけりがつくはずです」
「なるほど。それは楽しみです、期待していますよ」
「はい」
蒼士は相槌を打ち、室内の時計に目を遣った。あと少しで午後三時になろうとしていた。
捜査二課に戻った蒼士は、席に着きながらさり気なく佐藤課長の席を見遣った。
午後の外出予定は入っていないはずだが不在で、いつもは席に置いてあるノートパソコンもない。
不意に緊張感がこみ上げ、蒼士は落ち着くために深く息を吐いた。
今日、佐藤課長を試すために罠をかけた。
仕掛けたのは、今から三時間前のことだ――。
蒼士は佐藤を、会議室に呼びだした。
他の者の目を気にしているのだと察した佐藤は、すぐに蒼士に付いて来てくれた。
『どうしたんだ?』
そう言って蒼士の返事を待つ彼は、善良さが滲み出ているような穏やかな表情で、荒事とは無縁の存在のように見える。彼を疑っている自分の方がおかしいのではないかと錯覚しそうになる程だ。
蒼士は佐藤から目を逸らして、口を開いた。
『奈良野と思われる男を発見しました』
『......本当か?』
穏やかな声だが、目は笑っていない。蒼士の発言に動揺している証のようだった。
『多摩地区の公営住宅です。外国人が多い団地で、聞き込みをしても有効な情報を得られませんでしたが、捜査員が偶然奈良野を見かけました』
『......そうか。それでどうする?』
佐藤は腕を組み、窓の外に体を向けた。蒼士の顔を見ようとはしない。
『明日の朝、新藤と私で話を聞きに行こうと思っています』
『そうか――』
『この件は極秘扱いでお願いします』
『奈良野の件は他には誰に?』