再会したエリート警視とお見合い最愛婚
 ふたりの態度から、話の内容が深刻なのだと察し、にわかに緊張がこみ上げる。彩乃はごくりと息を呑み父を見つた。

『分かりました』

 父は一度頷き、静かに口を開く。

『話と言うのは彩乃の生まれについてなんだ』

『生まれ?』

 なんだか嫌な予感がする。

『彩乃は私たちの実の子ではなく養女だ』

『......え?』

 彩乃の心臓がドクンと跳ねた。

(養女って私が? お父さんとお母さんの本当の娘じゃないの?)

 目の前がくらりと揺れた気がした。鼓動がドクドクと乱れ、大きな音を立てる。

『ど、どういうこと?』

『彩乃は私の従兄弟(いとこ)夫婦の娘だった。ただ事情が有って二歳になって直ぐに我々が引き取り養女にした』

 その後の父の話によると、彩乃の実の父と母は親になるには未熟なふたりだったそうだ。自分の子供を育てられず、彩乃が二歳になる前に施設に預けた。

 育ての父と母はしばらくしてからそのことを知り、養女に迎えると決断し彩乃を私設から引き取った。

 親族の子供を放置なんて出来ないという、責任感と同情心によるものだった。

 まだ二歳だった彩乃は、滝川家の両親を本当の家族だと信じ成長した。真実を伝えられるまで、ほんの僅(わず)かの疑いすら持つこともなく。

(だって......お父さんとお母さんはいつも私を大切にしてくれていたから)

 親の愛は無償だと聞いたことがある。その通りだと思う程に、彩乃はたくさんの愛情を受けて育ったのだ。

 今は結婚して独立した六才上の兄も、彩乃を妹として慈(いつく)しんでくれた。

(でも、お兄ちゃんも知ってたんだ)

 彩乃が引き取られたのが二歳だとしたら兄は当時八歳。いきなり出来た妹と血が繋がっていないと理解が出来る年齢だ。それでも彩乃に気付かれないように本当の兄として接し、可愛がってくれた。

 何も知らなかったのは彩乃だけだったのだ。

『彩乃』

 彩乃がひと言も発しないからか、父と母が心配そうに声をかけて来る。

『あ......大丈夫、聞いてるよ』

『本当はね、彩乃が成人した時に話そうと思ったの。でも私たちを慕ってくれるあなたにどうしても言い出せなくて......』

 悲し気な表情の母が言葉を詰まらせた。代わるように父が続ける。

『この話をしたら彩乃がショックを受けることは分かっていた。だが黙っていても近いうちに必ず気付く時が来る』
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