再会したエリート警視とお見合い最愛婚
『情報の流出を防ぐために、現時点では佐藤課長と私と新藤しか知りません。明日の捜査会議で情報共有します』

 声を潜めて言うと、佐藤が苦笑いになった。

『おいおい、まさか仲間を疑っているのか?』

『いいえ。ですが慎重に扱うべき情報ですから』

『......分かった。報告はこまめに入れてくれ』

 佐藤はそう言い残し、会議室を出て行った。それ以降佐藤の姿を見かけない――。


 佐藤課長が、テサラ通信と内島議員の贈収賄に関わっていると疑惑を持ったのは、小さな違和感がきっかけだった。

 彩乃との婚約のきっかけになった彼が、部下の信頼を集める頼れる上司が、犯罪行為に手を染めているなんて、とても信じられなかった。信じたくないと言った方がいいかもしれない。

 けれど、疑惑を持ち調べる程、不自然な点が浮かんでくる。

 蒼士が奈良野の元に向かう正確な日時を知り、先回りをして奈良野を逃がすことが出来る人物。三枝の元秘書に捜査の手が届かないように、前もって対処が可能な人物。

 捜査データの改竄が可能な者......それは蒼士を除いては佐藤だけだったのだ。

 そして彼は本来知らないはずの、見合い時から変化した彩乃の容姿を知っていた。それは佐藤が、捜査の現場指揮を統括している蒼士の動きを監視していたからではないだろうか。

 東京駅であとをつけていたのは、佐藤が依頼した者の可能性が高い。

 しかしいくら調べても明確な証拠は残されていなかった。

 行き詰ったそのとき、新藤から奈良野らしき男を見つけたと報告が上がってきた。

 だから、捜査本部に情報共有をする前の今日に、罠を仕掛けたのだ。

 佐藤が本当に裏切り者だとしたら、牧島議員の関係者を熟知し三枝からの賄賂にも関わっているだろう奈良野を警察に渡さない為に動くはずだ。

 蒼士が告げた明日の朝のタイムリミットまでに、奈良野をどこかに移すために接触するはずだ。

 佐藤自身が動かなくても誰かに依頼をして必ず奈良野を逃がすはず。

 けれど奈良野の部屋周辺は、新藤の部下が見張っており、不審な動きがあればすぐに連絡は入る手筈になっている。
 
 逆に何も動かなかったとしたら、蒼士の考えが間違っていたということになる。そのときは責任を取るつもりで、蒼士は上官の佐藤に嘘の報告をした。
 
 結果はどうなるのか。
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