再会したエリート警視とお見合い最愛婚
 仲間を疑い罠にかける罪悪感で、苦しく悩んだ。そんな蒼士に力をくれたのは彩乃だった。

 いつか彼女が言ってくれた言葉。

『蒼士さん、今何か迷っているのかもしれないけど、私は蒼士さんは正しい心を持った警察官だと思います。だから自分を信じて欲しい』

 その言葉を聞いて決心がついた。彼女には感謝しかない。

 心に燻(くすぶ)る罪悪感は消えないけれど、ここでぶれる訳にはいかないのだ。

 蒼士は未だ不在の佐藤のスケジュールを確認した。

 築地警察署で打ち合わせと記入されている。すぐに築地警察署に連絡をして、佐藤に電話に電話を繋げて欲しいと頼んでみた。

 しかし佐藤は、現在築地警察署にはいないと言う。

 時間が過ぎるのを、部下から上がって来る報告書の確認をして費やした。

 時計の針が午後五時三十分を指したそのとき、新藤が小走りで蒼士の席にやって来た。

 彼は酷く強張った顔で、「現れました」と小声で告げる。

 蒼士の心臓がドクンと音を立てた。

 確信はしていた。しかし外れて欲しいと思っていたのだ。

 手にしていたペンが手から落ちる。額に手を当てる蒼士に、新藤が青ざめた顔で報告を続ける。

「予想していた通り被疑者を連れて出たそうです。気付かれない様に跡を追跡するよう指示しました。俺も今から現場に向かいます」

「分かった。俺は刑事部長に報告に行く」

 蒼士は席を立ち、走り去っていく新藤を横目に刑事部長の元に向かった。


 三十分後。刑事部長から佐藤の身柄を拘束し連れ戻せとの指示が出た。

 上官を罠に嵌める蒼士のやり方は、結果として事件解決につながったがその過程に問題が多く、後々責任を追及される可能性もあるが、今は佐藤を捕らえることが先決だ。

 ところが新藤から、佐藤を見失ったと報告が入った。

『車での移動中に尾行に気付かれたようです。今付近を捜索しています』

 蒼士は舌打ちをしたい気分になった。新藤の部下は優秀だが、佐藤の危機察知能力はそれ以上だったということだ。

「付近にはいないかもしれない。捜索範囲を広げろ」

『はい』

 こちらの手の内を熟知している佐藤なら、新藤たちの捜索範囲をすり抜けるのも可能だろう。

 蒼士は自分のパソコンの画面に、都内の交通情報の監視システムにアクセスし、道路状況を確認する。
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