再会したエリート警視とお見合い最愛婚
助けに来てくれたのは最愛の人

 見知らぬ家に連れて来られて、どれくらいの時間が経ったのだろう。

 部屋の壁に寄りかかる形で座る彩乃は、込み上げる不安に襲われていた。

 部屋には時計がなく、手を拘束されているので、腕時計を確認することも出来ない。

 窓の向こうは真っ暗で、つい先ほどから激しい雨が降り出し、屋根と壁を叩くざあざあと激しい音ばかりが耳に響く。

 佐藤はどこかに行ってしまい見張りはいない。玄関まではそう遠くないし、窓には鍵がかかっているけれど、思いきり蹴飛ばせば割ることは可能な気がする。

 それなのに、彩乃は動けず、息を潜めて座っていた。思い切って逃げ出して、佐藤が家の中に居たとしたら。窓を割って庭に出たとして見張りがいたら。

 不安要素が多過ぎて、行動に移せない。失敗したらもっと酷い状況に陥りそうな気がするのだ。

 せめて佐藤がどこにいるのかを確認したいが、雨の音は、家の周囲の気配を消してしまっている。

(蒼士さん......私のメッセージに気付いてくれたのかな?)

 優秀な彼なら察してくれたのかもしれない。でもそうだとしても警視庁からここまではかなりの距離がありそうだから、すぐに助けは来ないと思う。

 不安で堪らず涙が零れそうになる。そのとき、部屋のドアが突然開いた。

 彩乃はびくりと体を震わせて、俯いていた顔を上げる。

「大人しくしていたようだな。扱いやすくて助かる」

 佐藤がどこからか戻って来た。彼はスーツから動きやすそうな黒のTシャツと細身のパンツに着替えをしていた。

 そのせいかがらりと印象が違って見える。

 佐藤は彩乃の側まで近づいて来て、乱暴に座り込んだ。

「もう少し付き合って貰う」

「......私をどうする気なんですか?」

 ひとりで居る間、佐藤が何の目的で彩乃を連れて来たのか何度も考えた。

 蒼士と父に対する人質か。それともお金目的か。

 佐藤はつまらなそうな表情で吐き捨てる。

「北条のせいで困ったことになったんだ。俺はもう終わりだよ」

「終わりって......」

 いったい何を言っているのだろうか。

「全て順調だったのに、北条のせいで台無しだ。あの正義感は、周りを不幸にする」

「......警察官に正義感があるのはいいことじゃないですか」

 恐怖に怯えているというのに、気付けば反論していた。

 佐藤が蒼士をばかにするような口ぶりが、我慢ならなかったのだ。

「何事も理想通りに行かないんだよ。お嬢様には分からないかもしれないが、生きていくには金がいる。ないと生きていけないんだから、どんな手を使っても手に入れるしかないだろう?」

 佐藤の言葉はとても警察官から出たものとは思えなかった。お見合いのとき、父と話していた佐藤は、常識があってしっかりした警察官に見えたのに。

「あなたは地位があるし、お金にだって困っていないのに私を人質にして身代金を要求するんですか?」
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