再会したエリート警視とお見合い最愛婚
 彼の目的が金銭なら、それしか考えられない。そう考えたけれど、佐藤は彩乃をバカにしたように声を立てて笑った。

「お嬢様はドラマの見過ぎじゃないか? 身代金の要求なんて失敗するに決まってるだろ。日本の警察は意外と優秀なんだ」

「それなら、どうして......」

「さっきも言ったが、俺はもう終わりなんだ。捕まるのも時間の問題。だったら残された時間で、復讐しようかと思ってね」

「復讐?」

 物騒な言葉に心臓がひやりとする。

「俺を認めない滝川次長と、俺が欲しいものを容易く手に入れる北条」

 佐藤の目付きが鋭くなった。

「俺はあいつとは違って金に苦労して育ったんだよ。キャリアとして入庁し、これで何もかも上手くいくと思ったのに、結婚で失敗した。妻にした女は貧乏神で、気付けば借金の山だ。それに比べて北条は欲のない顔で次期警察庁長官の娘婿になった。不公平だと思わないか?」

 佐藤は精神状態がかなり不安定になっているように見えて、彩乃の恐怖がますます高まる。

「で、でも、父に蒼士さんを進めたのはあなただって......」

 彩乃の言葉に佐藤が顔を歪めた。

「薦める訳ないだろ? 滝川次長には北条は仲間を告発した、非常に扱い辛い部下だと言ったんだからな。組織で浮いた人間を誰が娘の夫に選ぶと思う?」

「そんな、酷い......」

 蒼士の口から同僚の悪口を聞いたことは一度もない。彼は罪を犯した相手の未来すら心配していた人なのに。

「馬鹿な話だがお前の父親は北条を選んだ。北条は気が乗らないような態度を取りながら、ちゃっかり次長の婿の座に収まり将来安泰だ。俺は結果としてあいつのアシストをしたことになる。それなのにあいつは恩人とも言える俺を今追い詰めようとして
るんだ」

 佐藤は興奮しているようで、どんどん声が大きくなっていく。

 言っていることは言いがかりでしかないが、佐藤は本当に何もかも蒼士が悪いと思っているようだ。

 更に最悪なことに、なんらかの事情で追い詰められて自棄になっている。

 自棄になった人間は何をするか分からない。

 以前、裁判の結果が気に入らないからと言って、法律事務所で暴れていた男を思い出した。彼も、人生終わりだと自棄になって逆恨みしていたのだ。

 彩乃は佐藤との距離が怖くなった。下がりたくても後ろに壁がある為、身動きが取れない。
< 95 / 105 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop