再会したエリート警視とお見合い最愛婚
 怖がっているところを見せたくないのに、体が震えて止まらない。

「融通が利かない正義感で、人を陥れて許されると思うのか?」

「職務に忠実なだけでしょう? 許されないのは正義感がないあなたなのに」

 蒼士に対してのあまりの言い様に思わず言い返してしまうと、佐藤は顔を赤くして彩乃を睨みつけた。

「黙れ!」

 憎悪に呑まれた佐藤が、彩乃に近付いて来る。

 佐藤の手が彩乃に向かって伸びて来る。

 捕まったら何をされるか分からない。恐怖に駆られて彩乃は本能に任せて逃げ出した。

(怖い! 蒼士さん!)

 数メートルもしない内に肩を掴まれ、その場で激しく引き倒される。

「きゃあ!」

 左半身を床に打ち付け、彩乃は無様に床に倒れたまま呻いた。

 佐藤はろくに抵抗出来ない彩乃の姿が満足なのか、悦に入ったような目をしている。

 彩乃を甚振るのを楽しむその様子にぞっとする。

(蒼士さん!)

 恐怖にぎゅっと目を閉じたそのとき、激しい雨音も打ち消すような甲高い破壊音が耳を貫いた。

「北条!?」

 驚愕に満ちた佐藤の叫び声に驚き目を開けると、蒼士が佐藤の動きを封じるように、掴みかかっているところだった。

「蒼士さん!」

 彩乃は大きく目を見開いた。

(蒼士さんが来てくれた!)

 体中に希望が広がるのを感じながら、体を起こす。

 決して安心出来る状態ではないけれど、彼が目の前にいるだけで、恐怖が消えて固まっていた体が動きはじめた。

「くそ! 離せ!」

 佐藤は必死で抵抗していたが、格闘では蒼士の方に遥かに分があるようだった。

 蒼士は流れるような動きで佐藤を制圧すると、声高に叫んだ。

「佐藤! 逮捕監禁罪の疑いで緊急逮捕する!」

「ぐっ!」


 佐藤は何か言おうとしたが、抑えつけられた肩が痛むのか、顔をしかめた。

 真っ青な顔からは脂汗が滲んでいる。

 蒼士は手錠を使って佐藤を室内の支柱に拘束すると、彩乃の元に駆けつけて両腕を掴み顔を覗き込む。

「彩乃、無事か?」

 彼は彩乃の状態を見て激しく顔をしかめた。

「すぐに外す。少し痛むかもしれないが我慢してくれ」

 蒼士が彩乃の腕を拘束するビニールテープを丁寧に外していくが、皮膚に張り付いたテープは簡単に外れない。

「痛くないか?」

「大丈夫」

 先ほどまでの恐怖に比べたら、これくらいなんでもない。けれど蒼士は暗い声で言う。
< 96 / 105 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop