再会したエリート警視とお見合い最愛婚
「......こんな目に合わせてしまんなんて、本当にごめんな」

 彩乃の危害を加えたのは佐藤だというのに、蒼士はまるで自分が悪いと思っているかのようだ。

「蒼士さんはなにも悪くないよ。全部あの人が悪くて、蒼士さんのことを逆恨みして......でも怖かった。蒼士さんが来てくれなかったら、今頃......」

 佐藤は本気だった。決して脅しだけではなかった。思い出すと恐怖に体が凍り付く。

「もう大丈夫だ。もう二度と彩乃を傷つけさせはしない」

 最後のテープが外れ、ようやく腕が自由になった。

 蒼士が彩乃の頭を宥めるように優しく撫でる。大きな手が降りて、無事を確かめるように頬に触れる。

 今更気付いたが、蒼士は髪も服も土砂降りに遭った後のように濡れていた。

 豪雨をものともせずに、危険を承知でガラスを破り、彩乃を助けに入ってくれたのだ。

 彼が目の前に居て、もう大丈夫だと思ったからか、それまで耐えていた涙が込み上げる。

「うっ......蒼士さん!」

 蒼士の胸に夢中で飛び込んだ。ずぶ濡れだからだろうか、彼は一瞬躊躇ったものの、優しく彩乃の背中に腕を回す。

 彩乃は安心して、蒼士の胸で涙を流したのだった。


 どれくらい時間が経ったのか。遠くからサイレンの音が近づいて来た。

 しばらくすると周囲が騒がしくなり、多くの人が室内に流れ込んで来た。

「北条管理官!」

 若い男性が近付いて来るのを、彩乃は蒼士に抱かれながら、ぼんやりと眺めていた。

 沢山泣いて疲れたからか、思考がぼんやりしているし、体も怠くて上手く動かない。

 瞼が重くなり、もうこれ以上目を開けていられない。

「彩乃?」

 蒼士の声が遠くに聞こえるが、声が出ない。彩乃は意識が遠くなるのを感じていた。



 彩乃が目を覚ましたのは、見知らぬ病院の一室だった。

「彩乃......よかった無事で!」

 横たわるベッドの横には母が居て、彩乃の目が覚めたと気付くと泣きそうな顔になった。

「お母さん......」

「体はどう? 痛いところはない?」

「う、うん......大丈夫」

「よかった。でも先生を呼びましょうね」

 母が医師を呼ぶ姿を眺めているうちに、ぼんやりした頭が覚醒しはじめ昨夜の記憶が蘇る。

 蒼士に抱き締められて、ようやく安心して......。

「お母さん、蒼士さんは?」
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