再会したエリート警視とお見合い最愛婚
 彼の姿がないことに焦り、体を起こしながら母に問う。

「急に起き上がったら駄目よ! 蒼士さんは大丈夫だから安心しなさい」

「彼はどこにいるの?」

「蒼士さんが彩乃を助けて連れ帰って来てくれたのだけれど、私と入れ替わりに本部に戻ったわ。犯人は捕まったけれど、いろいろ後処理があるみたい。だからお父さんもすぐに来られないの」

「蒼士さんは怪我はなかった? 大丈夫なの?」

「彩乃と違って怪我ひとつないから大丈夫よ。ほら先生が来るからちゃんと休みなさい。その後に説明してあげるから」

 母が言い終えたタイミングで、医師がやって来た。

 問診で頭を打ったと伝えると、頭から足まで全身の検査をすることになった。

 深刻な状態ではなく、打撲が数か所と擦(さっ)過(か)傷(しょう)がいくつか。

 発熱していることと、精神的なショックもあるため、大事を取ってもう一日入院していくことになった。

 その後母から聞いた説明によると、彩乃は応援の警察官が到着してすぐに気を失ってしまい、蒼士がここまで運んで来てくれたらしい。

 連絡を受けた母が駆けつけるまで側にいて、彩乃を見守ってくれていたそうだ。

「夜には顔を出すと思うわ。すごく心配していたから、無事な顔を見せてあげないとね」

 母が言った通り、午後七時。面会時間終了の一時間前に蒼士がやって来た。母は蒼士と入れ替わりで帰宅し、明日の退院時に迎えに来てくれるとのこと。

「ありがとうございます」

 蒼士はドアのところまで母を送ってから、彩乃の元に戻ってきた。

 着替えはしたようだが、彼の顔には疲労が色濃く浮かんでいるから、昨夜から一睡もしていないのかもしれない。

 そうでなくても、仲間だと信じていた上司に裏切られたのだ。体の疲れよりも、心の傷が深いはず。

「蒼士さん、大丈夫?」

 ありきたりな言葉しか言えない自分が情けなくなる。

「ああ、俺は大丈夫だ」

 蒼士はそう言いながらを延ばし、彩乃の頬に張ってあるガーゼに触れて、顔をしかめた。

「こんな傷を負わせたくなかった」

 彼は彩乃に対しても負い目を感じているように見える。

「こんな擦り傷なんてすぐに治るから大丈夫。それより私は蒼士さんの気持ちが心配で......あの人は蒼士さんの上司だったから」

 もう何年も前から優しい彼が心を痛めているの、彩乃は知っている。
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