再会したエリート警視とお見合い最愛婚
「佐藤さんのことはもういいんだ。俺が後悔しているのはもっと早く、けりを付けなかったことだ」

「それは違います。たしかに怖かったけど、蒼士さんのせいだとは思わない。悪いのは罪を犯した人でしょう? 私が怒っているは蒼士さんを傷つけた佐藤さんで、蒼士さんは何も悪くないから」

「だが......」

「それに巻き込んだって言われるのは寂しく感じる。だって辛い気持ちもうれしい気持ちも、分け合いたいと思ってるから」

 大事にされて、蚊(か)帳(や)の外に置かれるよりも、蒼士の気持ちを話して欲しい。そして一緒に悩んで解決したい。

 そんな心からの気持ちが通じたのだろうか。

 蒼士が柔らかく微笑み、彩乃をそっと抱きしめた。

「ありがとう。彩乃には何度も力を貰ってるな。俺の一番の幸運はあの日彩乃と出会えたことだ」

 囁くような蒼士の言葉に、彩乃は泣きたい気持ちになった


「本当に?」

「ああ、信じられないのか?」

 蒼士の目が悲しそうに陰る。

「だって......」

 彩乃は一旦口を閉ざし、深く息を吐いた。それから覚悟を決めて彼を見つめる。

「私......少し前に銀座で女の人と一緒にいる蒼士さんを見かけたんです」

 彩乃はぎゅっと目をつぶる。本当はもっと上手く冷静に話を持ち掛けたかったに、口から出たのはあまりにストレートで責めるような言葉だったから。

『銀座で? あれは......』

蒼士が何かに思い至ったように動揺したように声を
大きくする。けれどすぐに冷静な声で続ける。

『彩乃が見た女性は同僚だ。誤解をさせてしまったのなら申し訳なかった』

「同僚なのは知ってるの。ごめんなさい私ふたりの話を聞いてしまって。蒼士さんは覚えていないかもしれないけど、あのとき蒼士さんとミナさんと言う名前の女性が付き合ってる噂があるって言ってたの。だから私、蒼士さんはあの人を好きなのかもしれないって不安になって......」

 話しているうちに辛くなり、彩乃は俯いた。

『心配かけて悪かった。彼女は本当に同僚以上の関係はないんだ。説明させてくれないか?』

 真摯に訴える蒼士に、彩乃は頷く。

「彼女は南佐奈(みなみさな)と言って築地警察署の警察官だ。俺とは同期で『警察大学校』時代に知り合ったんだ。それ以降意気投合して、彩乃が言う通り同僚と言うよりは友人と言った方がしっくりくる」

「警察大学......」

 警察大学校は警察組織の幹部候補を育成する機関だと聞いている。つまり未奈も蒼士と同様キャリアのエリートということなのだろう。

 同じような立場で同年代なら話も合うだろうし、親しくなっても不思議はない。
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