極上CEOの執愛に今にも陥落しそうです~私、振られたはずですよね?
昔の恋に揺れて
人の心は、過去の苦い記憶にどうしてこんなにも乱されるのだろう。
オレンジ色の太陽が水平線の向こうにゆっくり沈んでいくのをセスナ機の窓から眺めていた音羽香奈は、眼下に姿を現した島に目線を移して小さく息をついた。
「なんだ香奈、ため息なんて」
隣のシートに座る香奈の父、邦夫がジェット音に負けない大きな声で話しかけてくる。
決して静かではない機内で、小さな吐息がよく聞こえたものだと感心する。
「今のは、ため息じゃなくて深呼吸。心配しないで」
邦夫の耳に顔を近づけて訂正した。ただの呼吸だと、父だけでなく自分の心も誤魔化す。今さら過去の感傷に浸るなんて無意味だ。
「それならいいが、せっかくのかわいい顔が台無しだから、ため息はいかんぞ、ため息は」
「はいはい」
そういうときは普通〝幸せが逃げるから〟って言うんじゃないのかなと思いつつ、香奈は黒目がちの大きな目を細める。