極上CEOの執愛に今にも陥落しそうです~私、振られたはずですよね?
もともと料理が好きな彼女は、幼い頃から遊びの延長で家政婦と並んでキッチンに立っていた。父の勧めで料理教室にも通った。花嫁修業の一環にもなり、父にすれば目論み通りといったところかもしれない。
「フライパンで炒めるだけ。おねえちゃんにだって簡単に作れるよ」
「それは料理上手な人のセリフ。私は本当にダメだもの」
香奈は料理が苦手である。レシピがあればなんとかなるが、分量や手順など一つひとつが細かく気になり、提示されている所用時間を大幅にオーバーしてしまう。
〝しょうがひとかけって何グラム?〟〝適量や少々ってどのくらい?〟
悩んだり材料を準備したりしているだけで時間が過ぎ、完成する頃にはぐったりする。要領が悪いのだろう。
「苦手意識をなくすなら、シンプルなメニューから作ってみたらいいんじゃない? 今度教えようか? 結婚するなら、ある程度作れたほうがいいでしょう? あ、でも八雲さんに嫁ぐなら家事は外注だろうから問題ないのかな」
口に運ぼうとしていたスプーンを止め、深優があれこれ提案する。
〝八雲さんに嫁ぐなら〟
深優のひと言で香奈は手を止めた。