極上CEOの執愛に今にも陥落しそうです~私、振られたはずですよね?
海里の言い方を真似て、フロントガラスのその先を指差した。
「おちょくられてるのは気のせいか?」
クスクス笑う香奈の頭を、海里がくしゃっと撫でる。
高校時代を思い出し、胸の奥をきゅうっと摘ままれた感覚がした。
彼に連れていかれたのは、一見さんお断りという雰囲気をひしひしと感じる高級料亭だった。
看板がなければ、入口もわかりづらい。まるでわざわざ隠れているかのようにひっそりとある店は完全個室で、ほかのお客さんとも出くわさない造りをしていた。
壁に窓がない代わりに天窓があり、そこから夜空にぽっかり浮かぶ月が見える。
海里によると政府の要人や芸能人がお忍びで使う店だという。
帰国して間もない海里がそういった店に顔が利くのも、やはり成功者である所以なのだろう。個室なのに会話が憚れるのは、店が醸し出す厳かな空気のせいか。
「しゃべったら注意されそうな雰囲気ですね」
口もとに手を添え、内緒話をするように海里に囁く。