極上CEOの執愛に今にも陥落しそうです~私、振られたはずですよね?
「図書館じゃあるまいし、誰も注意なんかしないよ。そんなの気にするな」
海里が普通の声のトーンで笑い飛ばすと、個室のドアが開き着物姿の店員が顔を覗かせた。
「お呼びでしょうか」
「いえ。なにかあれば声をかけますので」
「承知いたしました」
店員がドアを閉めると同時に海里と顔を見合わせる。目が合った途端、揃って吹き出した。もちろん極めて控えめに。
「筆談にしましょうか」
「昔みたいに? そういえば図書館でもよく『しーっ』って注意されたっけな」
「ふふっ、そうでしたね」
凪子には『ふたりは要注意人物ね』とジョーク交じりに言われたものだ。話したいならカフェでどうぞと。懐かしい。
「香奈は声が大きいから」
「ええっ、それは海里さんのほうじゃないですか? 私は鈴の音って言われますけど」
「なかなか言うね。まぁ、たしかに香奈の声は透き通ってる」
「でしょう?」