極上CEOの執愛に今にも陥落しそうです~私、振られたはずですよね?
店員がまた顔を出しては困るので、囁き声で冗談を言い合う。
その直後、楽しい昔話は運ばれてきた前菜の登場で中断。必要以上の会話は交わさず、ただただ繊細で美しい料理を堪能して店を出た。
傾いた月を見上げて息を吐く。
「やっと息を吸えたって顔だ」
「ああいうお店は緊張しちゃって」
父に連れていかれる店でも、もう少し気楽な雰囲気が多い。ずっと背筋を伸ばしていたため体もカチコチだ。
「相変わらず社長令嬢っぽくないな。……あ、今のはいい意味で言ったんだからな?」
「わかってます」
たしか昔もそんなことを言われたっけと思い出す。
「そういう俺も、香奈を初めて連れていく場所だからって気張り過ぎたな」
海里の言葉に軽く胸が高鳴った。
(私を喜ばせようとしてくれたの?)