極上CEOの執愛に今にも陥落しそうです~私、振られたはずですよね?

 「今言えるのは、彼が私のお見合い相手だということだけなんです」
 「結婚はしないの?」
 「まだお返事はしていなくて……」
 「彼を好きだって顔に書いてあるけど」


 凪子がいたずらっぽく笑ったため、香奈は咄嗟に手で両頬を覆った。


 「いいなぁ、青春って感じ」
 「もうそんな歳じゃありません」


 二十代も後半に差しかかる。とはいえ、そんな年齢になるのに異性と付き合った経験がないのだから、経験値は中高生と変わらない。


 「私からしたら、まだまだ青春よ。ともかく、自分に素直になったほうが人生はうまくいくってことだけ、先輩として言っておくわね」


 凪子は深優と似たような忠告をして、カウンターのほうへ向かった。

 (自分に素直に、ね……)

 海里を好きな気持ちは素直に認めている。問題は、このまま結婚していいものかという点である。柚葉を忘れるための結婚なら、相手は香奈でなくてもいいからだ。
 好きだからこそ悩み、迷っていた。
 
 館内に、開館五分前のアナウンスが流れる。
 結婚話は心にいったん留め置き、香奈は気持ちを仕事に切り替えた。
< 141 / 292 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop