極上CEOの執愛に今にも陥落しそうです~私、振られたはずですよね?
「今言えるのは、彼が私のお見合い相手だということだけなんです」
「結婚はしないの?」
「まだお返事はしていなくて……」
「彼を好きだって顔に書いてあるけど」
凪子がいたずらっぽく笑ったため、香奈は咄嗟に手で両頬を覆った。
「いいなぁ、青春って感じ」
「もうそんな歳じゃありません」
二十代も後半に差しかかる。とはいえ、そんな年齢になるのに異性と付き合った経験がないのだから、経験値は中高生と変わらない。
「私からしたら、まだまだ青春よ。ともかく、自分に素直になったほうが人生はうまくいくってことだけ、先輩として言っておくわね」
凪子は深優と似たような忠告をして、カウンターのほうへ向かった。
(自分に素直に、ね……)
海里を好きな気持ちは素直に認めている。問題は、このまま結婚していいものかという点である。柚葉を忘れるための結婚なら、相手は香奈でなくてもいいからだ。
好きだからこそ悩み、迷っていた。
館内に、開館五分前のアナウンスが流れる。
結婚話は心にいったん留め置き、香奈は気持ちを仕事に切り替えた。