極上CEOの執愛に今にも陥落しそうです~私、振られたはずですよね?
部屋は途端に静かになり、きらめく摩天楼を横に見ながら、海里の意識は自然と遠い過去へ飛ぶ。
物心がついたとき、海里の父親はすでに有名なデザイナーだった。
当然ながら周囲は、将来は父親のあとを継いでデザイナーか、はたまたそのブランドを経営面から担う社長か、という目で海里を見ていた。
幼い頃から弟も含めたふたりに対する情操教育はもちろん、絵画や美しいものを見ることで美的センスを養い、マーケティングの知識や論理的思考力を育てる教育を施された。
しかし海里が興味を抱いたのはファッション業界ではなく、社会に新たな価値を生み出すIT業界だった。特に自宅にいながら、さまざまなものが買えるECサイトの魅力は、海里を夢中にさせていった。
香奈と出会ったのは、周囲の考えとのギャップに悩んでいた頃だ。
父親に強引に連れ出されたパーティーで『将来はお父様のあとを継いで』という会話や、次から次へと紹介される令嬢たちに飽き飽きし、海里は華やかな会場から逃げ出した。
そこにいたのが、イヤリングをなくして途方に暮れていた彼女だった。パーティーにうんざりして子どもじみた言いがかりをつけるなど、今思い出しても苦々しく、恥ずかしい。
同じようにパーティーから逃げたという彼女と話すうちに、香奈は海里の知っている〝社長令嬢〟の括りから外れていく。しっかりした意思も夢もあり、父親の威光に頼らず生きていきたいという強さを持っていた。