極上CEOの執愛に今にも陥落しそうです~私、振られたはずですよね?

 五日間の日程を終えてアメリカから帰国した足で、海里はYAGUMOホールディングスの東京オフィスに向かった。
 梅雨シーズン真っただ中の東京は、しとしとと静かな雨が降っている。ハイヤーの窓から見える午後の街はグレーに染まり、色を失ったよう。

 香奈に【ただいま】と送ったメッセージには、つい先ほど【おかえり】と返信があったばかり。不在にしていた間の仕事は立て込んでいる。いつ会えるだろうかと考えながら車を降り、ビルの一階にあるコーヒーショップへ立ち寄った。

 海里はその店のコーヒーがお気に入りで、オリジナルブレンドのコーヒーを買って東京オフィスで飲むのがルーティンのひとつである。
 いつものごとく列に並んでいると、耳に聞き慣れた声をかけられた。


 「海里くん」


 振り返ると、窓際のテーブルで幼馴染の柚葉が手をあげている。
 なぜここに?と訝しみつつ軽く手をあげて応え、コーヒーを受け取って彼女のもとへ行く。


 「こんなところでどうしたんだ」


 会うのはあのパーティー以来。連絡も取り合っていなかった。
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