極上CEOの執愛に今にも陥落しそうです~私、振られたはずですよね?
まだ口をつけていないコーヒーを手にし、海里はキャリーバッグを引いて店をあとにした。
ショックを受けていないと言ったら嘘になる。だが海里は、難題に立ち向かうのは嫌いではない。これまでもマイナス要素を跳ねのけ、ここまでやってきた。その男よりも海里のほうがいいとわかってもらえばいい。
九年越しの恋を実らようとしているのだから、多少の困難は承知の上である。
エレベーターに乗り込み、二十階にあるオフィスを目指す。扉が開き、受付ブースを通り過ぎると、すれ違う社員たちが「お疲れ様です」と声をかけてきた。
挨拶を返しつつ秘書室を経由してCEO室に入ると、追いかけてきた秘書の女性が入室する。コーヒーを持参しないのは、海里がショップのカップを手にしていたからだろう。
「おかえりなさいませ」
恭しく頭を下げ、かしこまる。
「なにか変わったことは?」
「特にはございません。ご不在の間の書類などはそちらにございますので、ご確認をお願いいたします」
「わかった。ありがとう」
海里は特定の秘書を持たない。世界各地に点在するオフィス所属の秘書はいるが、海里の行く場所に合わせて帯同するのは負担になるためである。