極上CEOの執愛に今にも陥落しそうです~私、振られたはずですよね?

 「明日は香港を案内するよ」
 「ほんとですか? 楽しみ」


 香奈の知らない海里の九年間を垣間見られるのはうれしい。ほんの一部に過ぎなくても、少しずつ埋めていけば、いつかきっと柚葉の存在を越えられると香奈は信じている。それこそが昔、海里が教えてくれた〝私はできる〟の精神である。
 今は海里が香奈を妻にしようと考えてくれただけで十分だ。

 再び前向きな気持ちを取り戻せたのは、忙しい海里が香港まで連れてきてくれたおかげ。香奈を喜ばせようとしてくれたから。

 (私も、海里さんになにかできることはないかな……。少しでもいいところを見せて、好きになってもらう努力をしなきゃ。今すぐできること、なにかあるかな)

 あれこれ考えて思いついた。


 「海里さん、読み聞かせをしてもいいですか?」
 「読み聞かせ?」


 驚かせてしまったか、海里は目を丸くした。


 「あ、もちろん絵本とか児童書じゃなくて、大人向けの本ですけど」
< 186 / 292 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop