極上CEOの執愛に今にも陥落しそうです~私、振られたはずですよね?

 海里はスマートフォンを右手に持ち替え、左手に光る結婚指輪を眺める。香奈の唇にするつもりで、自分の薬指に口づけをした。

 たかが指輪、されど指輪。不確かな愛を育もうとしている海里にとって、目に見えるふたりの繋がりはとても大きい。


 『それじゃ、甘えちゃおうかな』
 「ああ、そうしてくれ」
 『はい、よろしくお願いします。明日、待ってますね』


 いよいよ明日から、ここでふたりの生活がはじまる。
 想像するだけで気持ちは高揚し、知らず知らず笑みが零れる。もしもミナトにでも見られたら、〝締まりのない顔だ〟と揶揄されるだろう。


 『おやすみなさい』
 「おやすみ」


 幸せな気分で香奈との通話を切ったそのとき、背後を誰かが通った気配がした。

 しかし反射的に振り返ってみても、誰もいない。気のせいかと思いなおした直後、柚葉の存在を思い出す。香奈と電話しているうちに、うっかり忘れていた。
 玄関へ行くと、彼女はそこにいた。
< 219 / 292 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop