極上CEOの執愛に今にも陥落しそうです~私、振られたはずですよね?

 近づいてきた海里が香奈の両肩を抱き、そっと立ち上がらせる。
 咄嗟にイヤリングごと手をパジャマのポケットに突っ込んだ。


 「海里さん、あの……」


 ポケットの中で握りしめたイヤリングがぎりっと軋む。
 香奈の顔を覗き込んだ海里の目も見られない。


 「香奈?」


 今ここでイヤリングを突き出したら、香奈たちはきっと終わる。優しい海里のことだから、香奈をこれ以上傷つけられないと考えるだろう。
 そう思うと、彼を問い詰める勇気は出ない。彼女との痕跡を見せつけられてもなお、海里との未来を諦めきれずにいた。


 「ごめんなさい……」
 「やっぱり無理か」


 海里がぽつりと呟く。
 無理とはいったいどういう意味なのか。海里の顔を見上げた。
 憂いを帯びた眼差しは、香奈ではないどこか遠くを見ている。
< 227 / 292 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop