極上CEOの執愛に今にも陥落しそうです~私、振られたはずですよね?
冷ややかな声を浴び、真司は脱力したようにベンチにストンと座った。
ゆっくり息を吸い、静かに吐き出してから口を開く。
「香奈のことが好きだったんです。だからバレンタインデーにチョコレートの橋渡し役を買って出ながら、八雲さんに会いにも行かなかった。香奈には、八雲さんは柚葉さんと付き合うから受け取れないと言われたと伝えて、八雲さんには、俺が香奈と付き合うって嘘をついて牽制したんです」
「えっ……」
それは衝撃的な告白だった。
真司に託したチョコレートを海里は見てもいない。当時、香奈の気持ちは海里にまったく伝わっていなかったのだ。それだけでなく海里と柚葉が恋人同士というのも嘘だった。
(そんな……)
香奈は全身から力が抜けていくのを感じていた。想像もしない事実だった。
「つまり岩井は、俺にも香奈にも嘘をついたということか」
「……すみません」
真司は今にも消え入りそうな声で謝罪し、肩をがっくり落とす。九年あまりの時を経て打ち明けることができた安堵と、ふたりから糾弾される恐怖が入り混じっているように見えた。