極上CEOの執愛に今にも陥落しそうです~私、振られたはずですよね?

 断定せず冷静な口調で問いかけるのが、かえって恐怖心を煽る。


 「ち、違うの。あのね、海里くん」


 つい先ほどまでの落ち着き払った口調はどこへいったのか。狼狽ぶりからも彼女の嘘は明らかだった。
 柚葉は恐る恐る海里を見上げて唇をわななかせる。


 「香奈には俺と柚葉が恋人同士で駆け落ち寸前だったという作り話を聞かせ、俺には香奈に忘れられない男がいる、それも岩井だろうと吹き込むなんて許されることじゃない」
 「だ、だって……」


 柚葉は頼りなく目線を下に向かって彷徨わせ、今にも消え入りそうな声で言ってから、ぐっと顔を上げた。


 「海里くんが全然私を見てくれないから! 子どもの頃からずっと好きだったのに。アメリカに渡ったときには、これで香奈ちゃんとは終わりだと私がどれだけホッとしたかわからないでしょう」


 柚葉はこれまで見せたことのないほど憎しみのこもった目で香奈を睨みつけた。
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