極上CEOの執愛に今にも陥落しそうです~私、振られたはずですよね?

 「話が長い人間は嫌われますので、手短にお話しします。言の葉ライブラリーは今後、八雲ホールディングスが責任を持って運営していく所存です。図書館は公共の施設であり、採算が取れなくても必要な施設。誰もが知識や情報を得ることのできる知的インフラなのです」


 知的インフラ。あまり聞き慣れない言葉が、香奈の心に妙に響いた。

 図書館は本との出会いはもちろん、人と人との出会いを生み出す場所であり、人の知識欲を満たす基盤なのだ。維持し続けることが大事である。


 「図書館は命に関わる施設でないため、なくなったからといってすぐになにかが変わるわけではありません。存在意義がわかりづらい施設です。しかし私は、図書館が与える豊かさは確実にあると信じています」


 香奈はまさに身をもってそれを体験している。ここで本の世界が広がり、夢を育み、海里や凪子をはじめとした人たちと出会えた。
 ここがなければ決して得られなかったものばかりだ。


 「運営にかかる費用はすべて私が請け負います。皆さんは、これからもやりたいことを思う存分、言の葉ライブラリーで実践してください。私からは以上です」


 海里はそう締めくくってから、スマートな振る舞いで館長の飯田に場を譲った。

 頼もしい言葉の数々が、海里をより魅力的に見せる。見慣れているはずのスーツ姿は、いつも以上に知的で素敵だった。

 図書館の存続が決まった喜びが職員の間に広がる。その中には、海里と香奈の関係をあれこれ予測する、楽しげな声も混じっていた。
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