極上CEOの執愛に今にも陥落しそうです~私、振られたはずですよね?

 音羽家の長女として生まれた以上、いつかは父の思い描くような男性との結婚が待っているのはわかっている。しかし今すぐ候補を決めろというのは、少々乱暴ではないか。

 父の助けになるような相手、たとえばどこかの御曹司と結婚するのだとしたら、おそらく香奈は仕事を辞めて夫を支えなければならないだろう。
 せっかく夢を叶えて司書となった今、その仕事を失いたくなかった。


 「お父さん、私ちょっとトイレに行ってくるね」


 切々と語る邦夫を遮り、身を翻す。もちろんトイレは〝婿探し〟から逃れる口実だ。
 邦夫にもそれはお見通しだったのだろう、香奈を引き留めようとしたが、同年代の男性に話しかけられて伸ばした手をやむなく下げた。

 (何歳になっても、やっぱりこういうパーティーは苦手だな)

 これまでも何度か経験してきたが、回数を重ねてもいっこうに慣れない。

 香奈は会場を出て、ふらりとビーチに向かった。今を盛りに咲き誇るブーゲンビリアは、あのときのよう。海から穏やかに吹く風に揺れ、〝おいで〟と香奈を誘っているみたいだ。
 九年前に華々しく開業したこのリゾートは、数年前に経営の危機に陥り廃業寸前だったらしい。べつの企業が名乗りを上げて買い取り、現在は再び世間の脚光を浴びていると聞く。
< 33 / 292 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop