極上CEOの執愛に今にも陥落しそうです~私、振られたはずですよね?
ホテルや敷地内の施設は当時の姿を残したまま改修されたため、見た目は昔と変わらない。ビーチに続く芝生や敷石も、香奈の記憶にあるものと同じ。鼻先をくすぐる潮の香りも月明かりも、あのときのままだった。
懐かしいというよりは、ついこの前ここを訪れた感覚さえする。目に入る景色があの頃と変わらないからだろうが、香奈の気持ちが止まっているせいもあるのかもしれない。
思い出に浸りながら建物を出てすぐ、黒いシックなドレスに身を包んだ五十代後半の女性がいることに気づいた。下を向き、なにやら探し物でもしている様子だ。
「どうかされましたか?」
香奈が声をかけると、女性が顔を上げる。切れ長の一重瞼がクールな印象の知的な美人だ。
「イヤリングを落としてしまったの」
外の風にあたるために出てきたら、歩いているうちに落としてしまったという。
「それはお困りですよね。一緒に探します」
悲しそうに眉尻を下げる女性を放ってはおけない。いつかの自分の姿にも重なった。