極上CEOの執愛に今にも陥落しそうです~私、振られたはずですよね?

 聞き覚えのある声をかけられた。考えるより早く鼓動が大きく弾む。足を止めて息を詰め、近づいてきた人を凝視した。

 ほんの一瞬だけ、自分がどこにいるのかわからなくなる。いきなり九年前に引き戻され、頭が混乱した。まるであのときの光景が目の前で再生されているよう。


 「海里さん……」


 久しぶりに見る初恋の人――海里の姿だった。

 サラサラの黒髪を風になびかせ、涼しげな目をして香奈を見る。ブルーグレーのジャケットを片方の肩に掛け、ホワイトシャツに千鳥格子の赤いネクタイが憎いほど似合っていた。

 三十一歳になった彼から昔以上の色香が漂い、覚えた目眩でわずかに視界が揺らぐ。
 いや、目眩は彼の外見のせいだけではない。初めて出会った場所で再会するという運命的なシチュエーションのせいもある。

 そしてそれ以上に、激しく高鳴る鼓動の仕業でもあった。


 「久しぶりだな」
 「はい……」
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