極上CEOの執愛に今にも陥落しそうです~私、振られたはずですよね?

 大きく旋回していたセスナが機体を真っすぐに保ち、次第に降下していく。夜の闇をまといつつある海とは対照的に、滑走路を有する敷地内には煌々と明かりがついている。島の一画だけ煌びやかなライトアップがされ、その様は色とりどりのサンゴ礁が海から現れたようにも見えた。

 軽い衝撃とともに車輪がキュルキュルと音を立てる。機体は次第にスピードを落とし、静かに止まった。

 案内に従いタラップから降りると、懐かしい潮風が香奈たちを出迎える。ふわりと体を撫で、まとわりつくような風だ。
 胸元とハーフスリーブにレースがあしらわれたミントグリーンのドレスの裾をなびかせ、ヒールの音を響かせながら足を進める。五月半ばの乾いた風が、緩くアップにした香奈の前髪を揺らした。

 十八歳のとき、香奈は両親とこの島へ来たことがある。無人島を開発した企業が、リゾートのオープンセレモニーを大々的に開催したときだった。

 もう九年も前なのに、まるで昨日の出来事のように感じる不思議。目に映る景色と海の匂いが、香奈の時間をゆっくりゆっくり巻き戻していく。
 パーティー会場に向かいながら、意識はいつの間にか同じ景色をした過去の記憶に飛んでいた。
< 4 / 292 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop