極上CEOの執愛に今にも陥落しそうです~私、振られたはずですよね?
父と男性の話に相槌を打ちながら、海里を目で追う。
すると彼のもとにひとりの女性が親しげな様子で近づいてきた。胸元にかかったサラサラの長い黒髪が美しい。
(あっ、あの人……柚葉さん?)
見覚えのある美女だった。膝までスリットの入ったサーモンピンクのドレスがよく似合っている。
北垣柚葉――九年前のパーティーでビーチに海里を呼びにきた女性であり、彼の恋人だとあとで知らされた人物でもある。
(今もお付き合いしてるのかな……)
楽しそうに話す様子からは、順調に交際を重ねているのがわかる。
「あのふたり、お似合いよね」
「ああ。近々結婚するらしいよ」
香奈の耳が、海里たちのほうを見ながら話す男女の会話を拾う。
(結婚するんだ……。そっか、そうだよね。美男美女でお似合いだもの)
もうとっくに吹っ切った恋のはずなのに、胸に鈍い痛みが走った。二度振られた気分になるなんてどうかしている。
(いい加減、きっぱり忘れなきゃ。海里さんは柚葉さんのものなんだから)
昔の恋に揺れている場合ではない。自分を言いくるめ、香奈はふたりに張りついた目を無理やり引き剥がした。