極上CEOの執愛に今にも陥落しそうです~私、振られたはずですよね?
 ***

 九年前の夏――。

 端にいる人の顔が認識できないほど広いホールには、多くの人が集まっていた。着飾った人たちの熱気のせいか、それとも湿った陽気のせいか、会場内はムンムンしている。

 新リゾート誕生を祝うパーティーは、どこもかしこもセレブリティで華やかな人たちばかり。花で例えるならば、高貴なバラがそこら中に咲いている様相である。

 ブッフェ形式の立食パーティーのため、あちこちで賑やかな歓談の輪ができており、香奈は両親のあとをついて回るだけ。鮮やかなカナリア色のワンピース姿は、親鳥を追う雛のよう。
 知っている人もおらず、両親の後ろでただ笑みを浮かべて歩く。ソフトドリンクは飲み飽き、料理もひと通り手をつけた。

 (そろそろ外の空気でも吸ってこようかな)

 両親にひと言伝え、ドアボーイが開けてくれた重々しいドアから出た。話に夢中のふたりに、香奈の声がきちんと届いていたかどうか怪しい。

 背後で扉が閉まると、中の喧騒がぴたりと止んだ。
 ホールの外は通路と呼ぶには広い空間が長く伸び、よく効いたクーラーのひんやりした空気が気持ちいい。
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