極上CEOの執愛に今にも陥落しそうです~私、振られたはずですよね?
館長に香奈を推薦してくれたのも彼女。香奈の図書館好きの熱意を伝えてくれた恩人だ。
「棚に戻してきますね」
「ありがとう、よろしくね」
香奈は、昨日の閉館から今朝までの間に返却された本の手続きを一冊ずつ終え、カートに載せて書架に戻しはじめた。
ドーム型の壁一面に本が並び、中央に向かって渦巻き状に書架が並ぶ様は、外観からは想像がつかない。幼稚園児の頃、本屋の棚とはまるで違う形状に驚いたものだ。
図書館の好きなポイントはいくつもあるが、一番は静けさの中にたくさんの本がずらりと並んでいる点である。自分まで本になったような錯覚を覚える知的な空間が、たまらなくいい。
普段なら仕事に没頭するそんな環境が、この頃は香奈をたやすく物思いに耽らせる。
海里とはあのビーチで会ったきり。パーティーが終わったあと、香奈は父にお願いして臨時でヘリコプターを飛ばしてもらった。
香奈が珍しくわがままを言ったため邦夫は困惑していたが、一刻も早く〝現在〟に戻りたかった。それだけ海里との再会と、柚葉との結婚話に動揺していたということだ。
当時から重ねたのは年齢だけ。忘れたつもりになっていたが、心はあのときとなにも変わっていないのだろう。