極上CEOの執愛に今にも陥落しそうです~私、振られたはずですよね?

 その夜、香奈は父に呼ばれて仕事帰りに実家に立ち寄った。

 おいしいスイーツを買ってきたから、家族四人で食べようと言うのだ。それが香奈の大好きな『ミレーヌ』のケーキだったものだから、『行く』と即答。電話で父の声がどことなく弾んでいたのは、香奈が快く返事をしたからだろう。
 邦夫はなにかと口実を作っては、一年ほど前からひとり暮らしをはじめた香奈を家に呼びつける。きっと寂しいのだ。

 ひとつ年下の深優も家を出たがっているが、『深優までこの家を出て行ってしまうのか』と父に泣きつかれ、なかなか実行に移せないらしい。

 閑静な住宅街に建つ真っ白な邸宅は、高級住宅街でもひときわ目立つ存在である。
 ロートアイアンの門扉を開け、あたたかな光が漏れる玄関のドアを自分で開錠する。


 「ただいまー」


 ドアを開けると、すぐさま深優がスリッパの音を立てて奥から現れた。
 少し癖のある栗色の髪を顎のラインで切り揃え、父によく似た切れ長の目を細める。


 「おねえちゃん、おかえり」
 「ただいま。お父さんとお母さんは?」
 「リビングで今か今かとおねえちゃんの帰りを待ってるよ」
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