極上CEOの執愛に今にも陥落しそうです~私、振られたはずですよね?

 つい恨み言が口をつく。結婚したら、司書の仕事ができなくなるかもしれないと危機感を募らせたゆえの反発だ。


 「もちろん会社の行く末は大事だが、香奈の将来が心配なんだよ。父さんも母さんも、いつまでも元気でいるわけじゃない。間違いなく香奈や深優よりは先に天に召されるんだ。だからふたりにも父さんたちみたいに素敵な伴侶を見つけてやりたい。その一心だよ」
 「そうよ、香奈」


 邦夫が優しく諭す隣で、由美子は穏やかな笑みを浮かべて深く頷いた。

 結婚を催促するのは、決して会社のためではない。自分たちがいなくなったあとに娘を任せられる相手を見つけてあげたいという、子を持つ親ならではの真理だろうか。


 「口やかましく言ってすまないとは思ってるよ。それに結婚だけが幸せとは言いきれないかもしれない。でもやはりどうしたって、娘たちには素晴らしい相手と結婚して、幸せな家庭を築いてほしいと願ってしまうんだ」

 ふと、両親がいなくなったあとの未来を想像する。
 香奈が結婚せず独身を貫いた場合、家族は深優だけ。もしも彼女が結婚してべつの家庭を持っているとしたら、香奈はひとりきりになる。友達にも同じく家庭があるかもしれない。みんなそれぞれ帰る場所があるのに、香奈はどこへ帰ってもひとりだ。
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