極上CEOの執愛に今にも陥落しそうです~私、振られたはずですよね?

 「……やぐも、さん?」


 一文字ずつゆっくり発して聞き返す。
 そこまで珍しい名字ではないから、べつの〝八雲〟かもしれない。いや、でももしかしたら――。


 「ああ、八雲海里さん。YAGUMOホールディングスを一代で築き上げた人物だ。香奈も名前くらいは聞いたことがあるだろう?」


 愕然とした。
 半開きにした唇を閉じられず、瞬きをするのも忘れる。隣に座る深優の視線を横顔に感じながら、そちらを向くことすらできない。


 「まさかそんな素晴らしい人物から縁談が舞い込むなんて思いもしなかったよ。あのパーティーに参加して大正解だったな」
 「本当によかったわ」


 邦夫も由美子もこれ以上ないほどの喜びようだ。
 昨夜、電話をよこした邦夫の声が弾んでいたのは、このせいだったらしい。香奈の大好物であるミレーヌのケーキを用意して、四人でお祝いしようとワクワクしていたに違いない。

 (だけどちょっと待って。それじゃ柚葉さんはどうしたの? 海里さんは彼女と結婚するんじゃなかったの?)
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