極上CEOの執愛に今にも陥落しそうです~私、振られたはずですよね?

 九年前、二度と会うはずのない海里と再会したのは、パーティーから一カ月が経った夏休みの終盤だった。
 香奈は受験勉強の真っただ中。三年生の夏を制する者は受験を制すると学校の先生に叱咤激励され、猛勉強している最中だった。

 集中するなら、誘惑がたくさんある自宅より図書館がいい。香奈は午前中の夏期講習が終わったあと、午後から閉館にかけて図書館で過ごすスタイルをルーティンとしていた。

 ある日、『ここいいですか?』と向かいの空席を尋ねてきたのが海里だった。

 目が合い、揃って数秒間フリーズ。その後に『あっ!』とふたり同時にあげた声が館内に響き、近くで本の整理をしていた凪子に目で〝静かにね〟と注意されてしまった。

 顔を見合わせ、自分の唇に人差し指をあてて笑い合う。パーティーで出会ったときの光景が蘇り、海があるわけでもないのに潮の香りがしたような気がした。

 たった一カ月しか経っていないのに、さらに大人っぽくなった彼が香奈の鼓動を弾ませる。なによりも気分を高揚させたのは、ドラマティックな再会だ。
 約束したわけでもないのに、この広い世界で再び会えた奇跡。それはあの海で微かに、そして密かに覚えた淡い想いの残像を甘く刺激した。
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