極上CEOの執愛に今にも陥落しそうです~私、振られたはずですよね?

 「えっ、落とした!? 嘘でしょう!」


 弾かれたように立ち上がり慌てて周りを見回すが、どこにも見当たらない。


 「やだ、どうしよう……!」


 ここへ歩いてくる途中で落としてしまったのか。
 ムーンストーンとパールをあしらったイヤリングは、香奈の一番のお気に入りであり大切なもの。それを失くすなんて考えたくもない。

 (どこ? どこにいったの?)

 目を凝らし、下を見ながら来た道を引き返す。風に吹かれて砂に埋もれてしまったら見つからないかもしれない。


 「ほんとにどうしよう、お願い出てきて……!」


 焦りに焦って自分がつけた足跡を辿っていると、不意に香奈の視界に黒い革靴が飛び込んできた。

 驚いて顔を上げ、息を飲む。計算しつくされたと思えるほど、美しい造形をした容姿の男性が立っていた。サラサラの黒髪が潮風に吹かれてなびく様まで、細かく設定が決められているかのよう。
 二十代半ばくらいだろうか。一八〇はゆうにある身長にほどよく引きしまった体躯は、光沢を帯びたブルーグレーのスーツの品格をより上げる。一度見たら記憶に残る美貌の持ち主だ。
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