獣人の里に流れ着きましたが、夫の番犬ぶりのおかげで穏やかな日々です。
3 ふたりの仮住まい
夫婦になるというのは、人間的には結婚だけれども、獣人の場合は番うと言うらしい。
そこの違いはミカとしてはまだわからないが、ひとまず一緒に暮らすのは人間と共通なのだそうだ。
ラウルは第一警護所からくるっと回っただけのところ、そこにあったラウルの住まいに連れてくるなり、平謝りして言った。
「すまん、こんな汚い男の一人住まいに連れてきてしまって。正式に番うときまでには立派な巣を用意するから」
「あ、大丈夫です。私の感覚ではとても綺麗な住まいです」
ミカはというと、元の世界の住処がわりと衛生的にも環境的にも酷いところだったので、全然気にしていなかった。
ミカは家の中を見て、ほっこり顔をほころばせる。
「それに、こういうかわいいお家に住んでみたかったんです」
ラウルの住まいは、外観がベージュのレンガ造りのレトロな雰囲気で、中に入ると手作りの木の家具で満ちていた。動物の形が彫り込まれた窓枠や、丁寧に編まれたタペストリーも、住まいに彩りを与えている。
ラウルは興味津々で辺りを眺めているミカに、彼の方が緊張した面持ちで言う。
「座ってくれ。茶を出そう」
椅子を勧められて、ミカはちょこんとラウルの向かいに座る。
ラウルは台所に立ってポットを持ってくると、ふとミカが座っている光景を見てつぶやいた。
「……うちに番いが座ってる。なんてことだ」
「ラウルさん?」
ミカの勘違いでなければ、ラウルは涙ぐんでいた。人間の世界なら世界チャンピオンみたいな鍛え抜かれた体躯の御仁なのに、この人は出会ってからミカに一度も荒っぽいことを言わないし、しない。
ミカは慌てて立ち上がって言う。
「ごめんなさい。突然嫁を押し付けられて迷惑してますよね? あの、私はとりあえず隅っこにでも置いておいてもらえれば」
「そんなことない。……本当に嬉しいんだ」
ラウルはポットをテーブルに置いて、片手で自分の目じりを拭ってはにかむ。
「出会えるのさえ稀な番いに出会えて……それも、君みたいなかわいい、優しい子だなんて」
「……ラウルさん」
この人の笑い方、くしゃっと目を和らげるところがかわいい。ミカはちょっと見惚れて、自分も照れくさくなった。
ラウルはポットのお茶をミカのカップに注ぐと、自分はその向かいに座って言う。
「獣人の里の暮らしはいろいろ人の世界と違って、最初は戸惑うと思う。獣人の獣性は危険もあるから、怖い思いをするときもあるかもしれない」
ラウルは澄んだ青い瞳でミカをみつめて、優しく念を押した。
「……でも、君とここで生きていきたいんだ。俺の持てる力すべてで君を守るから、君は俺の手の届くところにいてくれないか」
ミカはそんなことを人から言われたことがなくて、なんだかとても驚いていた。
ミカはゆっくり深呼吸をして、素朴な言葉を返す。
「私もラウルさんの力になりたい。どんなことをしたら喜んでくれますか?」
「そうだな……」
ラウルは少し考えて、彼らしい飾り気のない言葉をくれた。
「ふたりで暮らすうち、頼みたいこともきっとあるだろう。でも今は、君とゆっくりお茶を飲んでいたい」
ミカが笑い返して、ふたりの間に朗らかな空気が満ちた。
それで、ふたりはお茶を飲みながらゆっくり話し始めた。
そこの違いはミカとしてはまだわからないが、ひとまず一緒に暮らすのは人間と共通なのだそうだ。
ラウルは第一警護所からくるっと回っただけのところ、そこにあったラウルの住まいに連れてくるなり、平謝りして言った。
「すまん、こんな汚い男の一人住まいに連れてきてしまって。正式に番うときまでには立派な巣を用意するから」
「あ、大丈夫です。私の感覚ではとても綺麗な住まいです」
ミカはというと、元の世界の住処がわりと衛生的にも環境的にも酷いところだったので、全然気にしていなかった。
ミカは家の中を見て、ほっこり顔をほころばせる。
「それに、こういうかわいいお家に住んでみたかったんです」
ラウルの住まいは、外観がベージュのレンガ造りのレトロな雰囲気で、中に入ると手作りの木の家具で満ちていた。動物の形が彫り込まれた窓枠や、丁寧に編まれたタペストリーも、住まいに彩りを与えている。
ラウルは興味津々で辺りを眺めているミカに、彼の方が緊張した面持ちで言う。
「座ってくれ。茶を出そう」
椅子を勧められて、ミカはちょこんとラウルの向かいに座る。
ラウルは台所に立ってポットを持ってくると、ふとミカが座っている光景を見てつぶやいた。
「……うちに番いが座ってる。なんてことだ」
「ラウルさん?」
ミカの勘違いでなければ、ラウルは涙ぐんでいた。人間の世界なら世界チャンピオンみたいな鍛え抜かれた体躯の御仁なのに、この人は出会ってからミカに一度も荒っぽいことを言わないし、しない。
ミカは慌てて立ち上がって言う。
「ごめんなさい。突然嫁を押し付けられて迷惑してますよね? あの、私はとりあえず隅っこにでも置いておいてもらえれば」
「そんなことない。……本当に嬉しいんだ」
ラウルはポットをテーブルに置いて、片手で自分の目じりを拭ってはにかむ。
「出会えるのさえ稀な番いに出会えて……それも、君みたいなかわいい、優しい子だなんて」
「……ラウルさん」
この人の笑い方、くしゃっと目を和らげるところがかわいい。ミカはちょっと見惚れて、自分も照れくさくなった。
ラウルはポットのお茶をミカのカップに注ぐと、自分はその向かいに座って言う。
「獣人の里の暮らしはいろいろ人の世界と違って、最初は戸惑うと思う。獣人の獣性は危険もあるから、怖い思いをするときもあるかもしれない」
ラウルは澄んだ青い瞳でミカをみつめて、優しく念を押した。
「……でも、君とここで生きていきたいんだ。俺の持てる力すべてで君を守るから、君は俺の手の届くところにいてくれないか」
ミカはそんなことを人から言われたことがなくて、なんだかとても驚いていた。
ミカはゆっくり深呼吸をして、素朴な言葉を返す。
「私もラウルさんの力になりたい。どんなことをしたら喜んでくれますか?」
「そうだな……」
ラウルは少し考えて、彼らしい飾り気のない言葉をくれた。
「ふたりで暮らすうち、頼みたいこともきっとあるだろう。でも今は、君とゆっくりお茶を飲んでいたい」
ミカが笑い返して、ふたりの間に朗らかな空気が満ちた。
それで、ふたりはお茶を飲みながらゆっくり話し始めた。