獣人の里に流れ着きましたが、夫の番犬ぶりのおかげで穏やかな日々です。
7 おやつを食べながら
午後になったら体も少し楽になったので、ミカはお掃除を始めた。
まだ来てまもない自分がいろんな物を動かしたらラウルに悪いから、ひとまず床を掃いて水回りの手入れをした。
「でも綺麗なんだなぁ。ラウルさんの性格かな?」
床は素足で歩けるくらいに汚れもなく、キッチンも整理整頓がきちんとされている。物自体がそれほど多くないので、全体的に落ち着いた感じだ。
ミカは綺麗すぎる台所を見て、そういえばと手を叩く。
「ラウルさんは簡単なもの、食べてたから。今後は何か料理してあげられたらいいな」
幸い、ほとんど使った様子はないものの調理器具はある程度そろっている。
早速、ミカは余りもののパンと野菜を切って簡単に調味すると、丸い型に卵を流し込んでオーブンに入れた。
初めてのキッチンだから火加減をよく見て、何度か蓋を開けて中を確かめる。こういうのって、わくわくする。
半刻ほどたった頃、ラウルがやって来て不思議そうな顔をした。
「おいしそうな匂いがして来てしまった。それは何だ?」
「キッシュですよ。ラウルさんに食べてもらおうと思って」
「俺のために?」
ラウルはそれを聞くと、パタパタと尻尾を嬉しそうに振ってオーブンを覗き込む。
「うれしい。ミカが作ってくれたなら型ごと食べてもきっとおいしい」
「あはは。だめですよ、そんないたずらしちゃ。あ、そろそろいいんじゃないでしょうか?」
「俺が取り出す。熱いからな」
ミカが笑うと、ラウルもほっこり笑ってうなずく。彼はミカの代わりにオーブンを開けて、慎重にキッシュを取り出してくれた。
葉物野菜とパンを卵でとじたキッシュは、こんがりと焼き上がったようだ。ミカはそれをナイフで切り分けて、わくわくと待っているラウルと自分の前に並べた。
ふたりで向き合って、一口。ラウルは泣き笑いのような顔でうなずいた。
「おいしい……。王都でレストランに入ってもこんなにおいしくない」
「大げさですよ。大きなお店でちゃんと修行したわけじゃないんです」
ミカは気恥ずかしそうに苦笑する。ミカは元の世界にいた頃貧しかったので、中華料理屋やファミレスや、いろんなところの厨房で働いていた。だから少しは料理の心得があるが、専門で学んだことはないのだ。
ラウルはキッシュをゆっくり味わいながらミカに言う。
「番いが俺のために作ってくれたものだ。もちろんどんなものでも食べるが、それでもミカの料理はおいしいと思う。どんどん作ってくれ」
「はい。そんなに喜んでもらえるなら、練習しますね。獣人の食事のことはあんまり知らないので、里の料理上手な方に習ってみましょうか」
ミカがそう提案すると、ラウルは思案顔になった。
「他の獣人にミカを会わせる、か……。うーん」
「だめですか?」
「番いとなった後なら、だめじゃないが……妬けてたまらない……」
思いのほかラウルはうんうんうなって、ミカをみつめて言った。
「……わかった。いいよ。でも、俺はミカのために一生懸命働くから。ミカ、俺と一緒にいてくれ。な?」
「あ、はい。もちろん、旦那さんを置いて悪いことなんてしないです」
ミカはあっさりうなずいて笑った。ラウルはそんなミカに、くしゃっと口元を歪める。
「ミカはかわいくて、純真だから心配だ。本当はどこにも出したくないんだ」
「過保護ですねぇ。大丈夫、私、けっこうわんぱくなんですよ」
心配だ、大丈夫です、そんなやり取りを何度もして、二人のおやつ時間は過ぎていく。
開け放った窓から薫風が入り込んで、二人の頬をなでていく。
そんな、爽やかな気候の一日の出来事だった。
まだ来てまもない自分がいろんな物を動かしたらラウルに悪いから、ひとまず床を掃いて水回りの手入れをした。
「でも綺麗なんだなぁ。ラウルさんの性格かな?」
床は素足で歩けるくらいに汚れもなく、キッチンも整理整頓がきちんとされている。物自体がそれほど多くないので、全体的に落ち着いた感じだ。
ミカは綺麗すぎる台所を見て、そういえばと手を叩く。
「ラウルさんは簡単なもの、食べてたから。今後は何か料理してあげられたらいいな」
幸い、ほとんど使った様子はないものの調理器具はある程度そろっている。
早速、ミカは余りもののパンと野菜を切って簡単に調味すると、丸い型に卵を流し込んでオーブンに入れた。
初めてのキッチンだから火加減をよく見て、何度か蓋を開けて中を確かめる。こういうのって、わくわくする。
半刻ほどたった頃、ラウルがやって来て不思議そうな顔をした。
「おいしそうな匂いがして来てしまった。それは何だ?」
「キッシュですよ。ラウルさんに食べてもらおうと思って」
「俺のために?」
ラウルはそれを聞くと、パタパタと尻尾を嬉しそうに振ってオーブンを覗き込む。
「うれしい。ミカが作ってくれたなら型ごと食べてもきっとおいしい」
「あはは。だめですよ、そんないたずらしちゃ。あ、そろそろいいんじゃないでしょうか?」
「俺が取り出す。熱いからな」
ミカが笑うと、ラウルもほっこり笑ってうなずく。彼はミカの代わりにオーブンを開けて、慎重にキッシュを取り出してくれた。
葉物野菜とパンを卵でとじたキッシュは、こんがりと焼き上がったようだ。ミカはそれをナイフで切り分けて、わくわくと待っているラウルと自分の前に並べた。
ふたりで向き合って、一口。ラウルは泣き笑いのような顔でうなずいた。
「おいしい……。王都でレストランに入ってもこんなにおいしくない」
「大げさですよ。大きなお店でちゃんと修行したわけじゃないんです」
ミカは気恥ずかしそうに苦笑する。ミカは元の世界にいた頃貧しかったので、中華料理屋やファミレスや、いろんなところの厨房で働いていた。だから少しは料理の心得があるが、専門で学んだことはないのだ。
ラウルはキッシュをゆっくり味わいながらミカに言う。
「番いが俺のために作ってくれたものだ。もちろんどんなものでも食べるが、それでもミカの料理はおいしいと思う。どんどん作ってくれ」
「はい。そんなに喜んでもらえるなら、練習しますね。獣人の食事のことはあんまり知らないので、里の料理上手な方に習ってみましょうか」
ミカがそう提案すると、ラウルは思案顔になった。
「他の獣人にミカを会わせる、か……。うーん」
「だめですか?」
「番いとなった後なら、だめじゃないが……妬けてたまらない……」
思いのほかラウルはうんうんうなって、ミカをみつめて言った。
「……わかった。いいよ。でも、俺はミカのために一生懸命働くから。ミカ、俺と一緒にいてくれ。な?」
「あ、はい。もちろん、旦那さんを置いて悪いことなんてしないです」
ミカはあっさりうなずいて笑った。ラウルはそんなミカに、くしゃっと口元を歪める。
「ミカはかわいくて、純真だから心配だ。本当はどこにも出したくないんだ」
「過保護ですねぇ。大丈夫、私、けっこうわんぱくなんですよ」
心配だ、大丈夫です、そんなやり取りを何度もして、二人のおやつ時間は過ぎていく。
開け放った窓から薫風が入り込んで、二人の頬をなでていく。
そんな、爽やかな気候の一日の出来事だった。