恋とキスは背伸びして
親友ではなくなる時
「美怜、お待たせ」
「ううん。おはよう、卓」

やって来た週末。
美怜は駅の改札前で卓と待ち合わせた。

今日は車ではないからと、美怜は白いロングコートとブーツ、卓も暖かそうなブルゾンを羽織っている。

「私の最寄駅まで来てくれてありがとう」
「なんのなんの。車じゃなくて悪いなと思ってるんだ。これくらい当たり前だよ。それで?最初はどこに行くの?」
「えっとね、ここから電車で十分の、駅直結のショッピングモール。そこにカップルにおすすめのプラネタリウムがあるんだって」
「へえ、プラネタリウム?いつぶりだろう。小学生の課外授業で行ったのが最後かも」
「私もそうかも。それで佳代先輩のメモによると、三階のカップルシートのチケットを買うようにって」
「ふうん。とにかく行ってみるか」

電車はまだ比較的空いており、あっという間に目的の駅に着いた。

改札を出るとだんだん人が増えてきて、あちこちに行き交う人波にのまれ、美怜は卓とはぐれそうになる。

「美怜、こっち」

卓が手を伸ばして美怜の右手を握る。

「迷子になるなよ」
「うん。それにしてもすごいね、都会って。どこからこんなにたくさんの人が集まって来るんだろう」
「おい、今さら何言ってんだ?美怜だって都会で働いてるだろう?」
「でもマンションと職場の往復だけだから、街に出ることないんだもん。わあ、人酔いしそう…」
「え、大丈夫かよ。ほら、あんまりあちこち見ないでいいから」

そう言って卓は美怜の肩を抱き、なるべく人混みを避けて歩いた。
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