恋とキスは背伸びして
それからしばらくして、卓は佳代と美沙に飲みに誘われた。
てっきり美怜も一緒かと思っていたら、個室で待っていたのは二人だけで、卓は首をひねる。
「お疲れ様です。どうしたんですか?お二人で。美怜は?」
「今夜は美怜抜きで卓くんと話したくてね。ビールでいい?」
「あ、はい」
三人で乾杯すると、早速佳代が前のめりになって聞いてきた。
「卓くん。この間美怜と疑似デートしてきたんでしょ?今回は二人だけで」
「はい、そうです。そのおかげでプラネタリウムのアイデアを思いついて、ルミエールに提案したんです。そしたらぜひ取り入れたいって、カップル用の客室で貸し出すことになりました。佳代先輩、ありがとうございました」
「いやいや、そんな。後ろめたいからお礼なんて言わないで」
は?と卓は怪訝な面持ちで聞き返す。
「後ろめたいって、どういう意味ですか?」
「だから、その。汚れた私の心に純粋な眼差しを向けないでって言うか…」
ますます分からないとばかりに眉間にしわを寄せていると、美沙が横から口を開いた。
「まあ、それは置いておいて。卓くん、美怜との疑似デート、どうだった?楽しかった?」
「はい。楽し、かった、ですね、はい」
「ん?何その微妙なニュアンス」
「いえ、すごく楽しかったです。あいつもプラネタリウムに感激して、ランチはデザート三つも頼んでたし」
「へえ。可愛いね、美怜」
「はい…って、はい?」
焦って顔を上げる卓に、美沙は嬉しそうに笑い、佳代は驚いたように目を丸くする。
「わーい、卓くんが美怜に落ちた」
「ほんとに?こんなにあっさり?」
ちょ、ちょっと!と、卓は慌てて手を伸ばす。
「何を言ってるんですか?俺は別に、そんなことはひと言も…」
「言葉なんてなくても丸分かりよ。卓くん、哀愁漂わせて切なそうな顔してるもん。今までとは別人。ね、自覚はあるの?それともまだ自分の気持ちを認めたくない?」
美沙の言葉に、これはもう勝てないと観念して卓は小さく答えた。
「自覚は、あります。認めざるを得なくて。けど俺、今のままでいたいんです。親友の関係を壊したくなくて」
そう口にすると、またもや胸が苦しくなる。
思えば誰かにこの想いを打ち明けたのはこれが初めてだ。
一度口にしてしまえば、卓は気持ちが溢れたように止まらなくなった。
「あいつが言ってたんです。お互い同じ気持ちだったら恋人に進展してもいいけど、どちらかがそうじゃなかったら、そこで気まずくなって親友ではいられなくなるって。そんなふうに関係性が変わってしまうなら、私は親友のままがいいって。俺もそう思うんです」
うつむいたまま、卓は切なげに顔を歪めた。
「美怜の笑顔をずっと見たくて。もう俺に笑いかけてくれなくなったらって思うと怖くて。だから、このままずっと今まで通りに接するしかないって思ってます」
しばしの沈黙のあと、佳代が呟く。
「できるの?卓くん」
「…え?」
「美怜のこと、そんなに好きになったのに、その気持ちを押し殺して今まで通りになんて、本当にできる?」
「それは…、そうするしか」
すると佳代は大きく息を吐いた。
「いつもは超ポジティブなのに、卓くんらしくない。どうして悪い方だけ考えるの?美怜に気持ちを伝えて、美怜が頷いたら、あなた達は恋人同士になれるのよ?」
「でも、頷いてくれなかったら?もう二度と俺には無邪気に笑いかけてくれなくなる。それが何より怖いんです」
佳代は美沙と顔を見合わせる。
予想以上に卓は美怜に恋い焦がれ、辛い気持ちを抱えているようだった。
てっきり美怜も一緒かと思っていたら、個室で待っていたのは二人だけで、卓は首をひねる。
「お疲れ様です。どうしたんですか?お二人で。美怜は?」
「今夜は美怜抜きで卓くんと話したくてね。ビールでいい?」
「あ、はい」
三人で乾杯すると、早速佳代が前のめりになって聞いてきた。
「卓くん。この間美怜と疑似デートしてきたんでしょ?今回は二人だけで」
「はい、そうです。そのおかげでプラネタリウムのアイデアを思いついて、ルミエールに提案したんです。そしたらぜひ取り入れたいって、カップル用の客室で貸し出すことになりました。佳代先輩、ありがとうございました」
「いやいや、そんな。後ろめたいからお礼なんて言わないで」
は?と卓は怪訝な面持ちで聞き返す。
「後ろめたいって、どういう意味ですか?」
「だから、その。汚れた私の心に純粋な眼差しを向けないでって言うか…」
ますます分からないとばかりに眉間にしわを寄せていると、美沙が横から口を開いた。
「まあ、それは置いておいて。卓くん、美怜との疑似デート、どうだった?楽しかった?」
「はい。楽し、かった、ですね、はい」
「ん?何その微妙なニュアンス」
「いえ、すごく楽しかったです。あいつもプラネタリウムに感激して、ランチはデザート三つも頼んでたし」
「へえ。可愛いね、美怜」
「はい…って、はい?」
焦って顔を上げる卓に、美沙は嬉しそうに笑い、佳代は驚いたように目を丸くする。
「わーい、卓くんが美怜に落ちた」
「ほんとに?こんなにあっさり?」
ちょ、ちょっと!と、卓は慌てて手を伸ばす。
「何を言ってるんですか?俺は別に、そんなことはひと言も…」
「言葉なんてなくても丸分かりよ。卓くん、哀愁漂わせて切なそうな顔してるもん。今までとは別人。ね、自覚はあるの?それともまだ自分の気持ちを認めたくない?」
美沙の言葉に、これはもう勝てないと観念して卓は小さく答えた。
「自覚は、あります。認めざるを得なくて。けど俺、今のままでいたいんです。親友の関係を壊したくなくて」
そう口にすると、またもや胸が苦しくなる。
思えば誰かにこの想いを打ち明けたのはこれが初めてだ。
一度口にしてしまえば、卓は気持ちが溢れたように止まらなくなった。
「あいつが言ってたんです。お互い同じ気持ちだったら恋人に進展してもいいけど、どちらかがそうじゃなかったら、そこで気まずくなって親友ではいられなくなるって。そんなふうに関係性が変わってしまうなら、私は親友のままがいいって。俺もそう思うんです」
うつむいたまま、卓は切なげに顔を歪めた。
「美怜の笑顔をずっと見たくて。もう俺に笑いかけてくれなくなったらって思うと怖くて。だから、このままずっと今まで通りに接するしかないって思ってます」
しばしの沈黙のあと、佳代が呟く。
「できるの?卓くん」
「…え?」
「美怜のこと、そんなに好きになったのに、その気持ちを押し殺して今まで通りになんて、本当にできる?」
「それは…、そうするしか」
すると佳代は大きく息を吐いた。
「いつもは超ポジティブなのに、卓くんらしくない。どうして悪い方だけ考えるの?美怜に気持ちを伝えて、美怜が頷いたら、あなた達は恋人同士になれるのよ?」
「でも、頷いてくれなかったら?もう二度と俺には無邪気に笑いかけてくれなくなる。それが何より怖いんです」
佳代は美沙と顔を見合わせる。
予想以上に卓は美怜に恋い焦がれ、辛い気持ちを抱えているようだった。